カリンとマドゥ


 魔法陣の光が徐々に収まってくると、俺たちはカリンの屋敷へと戻ってきていた。


「……さて戻ってきたが、マドゥにどう報告するか。悩ましいな。」


 ポツリとカリンがそう呟くと……。


「僕のこと呼んだ?」


「むっ!?」


 二階からひょっこりとマドゥが顔を出したのだ。


「マドゥ、起きていたのか?」


「うん、ついさっきね。……それでどうだったの?」


「……どうとは?」


「多分、二人とも僕のお母さんに会ってきたんでしょ?」


 隠しきれないとわかったカリンは、マドゥの問いかけに対してゆっくりと頷いた。


「あぁ…そうだ。今しがた、会って話をしてきた。」


「お母さん、僕のことなんて言ってた?」


「……心配していたぞ、とてもな。」


 始め、優しい嘘をついたカリンだが……マドゥの嘘を見抜く力は予想以上に高く、簡単に見抜かれてしまう。


「それは嘘でしょ?お母さんは僕より、あの男の人のほうが大事だったから……そんなことは言わないよ。」


「うむむ……。」


 さっきほんの数分の間会話した俺たちとは違い、マドゥは自分の母親のことを深く理解している。


「心配しなくても大丈夫。僕はお母さんにどんな事を言われても傷ついたりしないから。だから、本当のことを教えて……お願い。」


 マドゥは強がってはいるものの、目の奥から少しずつ涙が溢れてきている。そんな様子を目の当たりにしたカリンは、あの会話を録音した魔道具を取り出した。


「……わかった。」


 彼女はそれを再生し、ついにあの会話をマドゥに聞かせた。


 自分の母親が自分自身へ一体どんな気持ちを抱いていたのか……マドゥは真剣に録音された会話を聴いている。

 溢れ出てくる涙を必死に堪えながら、最後の一言まで折れずにマドゥは聴き終えた。


「これで記録した音声は終わりだ。」


「うん……ありがとう。」


 グスッと鼻をすすり、強引に涙を拭うとマドゥは無理に笑った。


「お母さんが僕がいなくなって喜ぶなら、そ、それで…それで……いい。」


 話している最中にも、大粒の涙がまるでダムが決壊したかのように溢れてきている。


「お母さんの気持ちがわかったから……も、もういいかな。」


 大粒の涙を流しながら、マドゥは腰に隠していた包丁を抜いて自分の首に突き立てようとした。


「僕がこの世界にいる理由なんて……もう無いんだ!!」


「むっ!?」


 俺が動くよりも先にカリンが動き、マドゥの手にしていた包丁を弾き飛ばした。


「あっ!!」


「こんの……大馬鹿者ッ!!」


 自ら命を絶とうとしていたマドゥを怒鳴りながら、カリンはゴツン……と彼の頭に拳骨を落とした。


「あぐっ……。」


「良いか!!自らで自らの命を絶とうとする事ほど、愚かなことはないのだ!!例え、それが自分の運命に絶望した時であったとしてもだ!!」


 そう説教しながら、カリンはマドゥのことを強く抱きしめ、優しく頭を撫でる。


 初めての心がこもった説教だったのだろう、マドゥは抱きしめられながら目を白黒させていた。


「マドゥよ、先程この世にいる理由がないと言ったな?」


「う、うん。」


「ならば此方がこの世にいる理由を作ってやる。」


「え?わっ!?」


 カリンはそのままマドゥをお姫様抱っこすると、屋敷の中を連れ回し、ある書類を用意したのだった。


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