マドゥの母親
ヴラドウルフを片付け終えて、俺とカリンはヴラドウルフ達の集落の中へと足を踏み入れる。そしてマドゥの母親を探して木と土でできた家の中に足を踏み入れると……。
「うっ、この臭い……。」
「酷いな。」
家の中には、無残に内臓を貪り食われてすでに原形をとどめていない男の死体が一つと、ヴラドウルフに形容しがたい凌辱をされたらしい女性が無残に横たわっていた。
まだ息があるその女性も体のいたるところに噛み傷や爪で引っかかれたような痕があり、今にも息を引き取ってしまいそうなほど衰弱していた。
「おい、お前にはまだ死なれては困る。」
カリンはそう言って女性の近くに歩み寄ると、治癒魔法のようなものをかけて彼女の体を治療していく。するとその女性はカリンに視線を向け、かすれた声で問いかけた。
「だ…れ?」
「此方の名など今はどうでもよいことだ。」
そしてカリンは彼女へと質問を始めた。
「そこで臓腑を食われて死んでいるのはお前の伴侶か?」
「ただの…彼氏。」
「では質問を変える。お前には
その質問をされると、彼女はびくっと反応して答えに詰まる。その反応を見てカリンはすべてを察したようだ。
「し、知らない。」
「白を切っても無駄だ。」
「っ、マドゥは私が望んで産んだわけじゃない!!」
「ほぅ?望んだわけではないのに、わざわざ腹を痛めて産んだのか?」
「それは……あの人に産めって言われたから。」
「あの人、とはマドゥの実の父親のことだな。そいつはマドゥが幼いころに死んだのだろう?」
「私が殺したのよ。もうあの人と一緒の生活なんて耐えられなかったから。」
「ではなぜマドゥは自らの手で殺さなかった?望んだ子ではなかったのだろう?」
「ご飯を作らなかったら勝手に死ぬと思ってたわ。でもしぶとかった……だからあの時捨てて帰ったのよ。」
悪びれもせずにつらつらと語るマドゥの母親に、カリンは怒りをにじませながらも、最後の質問を始めた。
「すでに答えは眼に見えているようなものだが、最後に聞いておこう。お前はマドゥを愛していないのか?」
その問いかけに対して、マドゥの母親は即答する。
「愛してるわけないでしょ!!アイツのせいで貧乏になって、こんな冒険者稼業をやらなきゃいけなくなったんだから!!」
「……もういい。しゃべるな。」
そしてカリンは喋れなくなる魔法をかけて、治癒魔法をかけるのをやめた。すると、彼女の体に変化が現れる。
「~~~っ!?~~~っ!!」
さっきまで完全に回復しつつあった体がどんどんボロボロになっていくのだ。
「お前にかけていたのは治癒魔法ではない。体の時間を巻き戻す魔法だ。此方が魔法をかけている間は体の時は戻る。だが、今その魔法を解いた……故にお前の体は急速に元の状態に戻っていくのだ。」
ボロボロになっていく彼女を冷徹に見下ろしながらカリンは言った。
「行くぞ社長、今度はエートリヒ殿のところに行くのだ。」
声が出せないようにする魔法はそのままに、俺はカリンに連れ出され今度は王都へと向かうことになったのだった。
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