マドゥの育った家庭環境


 マドゥとお互いのことを知るためにコミュニケーションを図っていると、彼は俺達にあの実験記録を見たいとせがんできた。


「ねぇ、僕のことが書かれてたあの紙……もう一回見たい。」


「むぅ……正直な話、気分の良いものではないぞ?もう一度目にしたら、心が傷つくかもしれん。」


「大丈夫だよ。もう何も驚かないから。」


 あまり乗り気ではないカリンだったが、渋々あの研究記録を持ってきた。


「気分が悪くなったらすぐに読むのをやめるのだぞ。此方との約束だマドゥ。」


「うん。約束するよ。」


 そう約束を交わしてから、カリンはマドゥへ実験記録が詳細に記録された紙を手渡す。するとマドゥはその実験記録を真剣に読み始めたのだ。そして最後の最後まで、きっちりと読み終えると彼はカリンに実験記録を返した。


「ありがとう。もう大丈夫。」


「うむ、預かろう。」


 それからしばらく沈黙が続き、気まずくなってきたところでマドゥがある質問をしてきた。


「ねぇ、僕って本当にお母さんに捨てられたのかな。ホントは僕のことを探してる……とか。」


「マドゥの母親の真意は此方等にもわからん。それはそなたの母親しか知りえぬこと。」


「そう…だよね。」


 少し落ち込んだマドゥに、カリンは母親のことについて問いかけた。


「マドゥよ、お前の母親について少し聞かせてはくれまいか?それで何かわかるやもしれん。」


「い、いいよ。」


「ではまず……お前にとって母親とはどんな存在だった?」


「僕大好きだったよ。」


 マドゥのその回答に、カリンは少し目を細めた。


「ふむ、では母親はマドゥ…お前のことを愛していたと思うか?」


 少し踏み込んだその質問に、マドゥは即答することはできなかった。カリンの質問に対して少し考え込みながら、ある答えを絞り出す。


「…………わからない。」


「わからないか。」


「うん、僕が大きくなってからお母さんはあんまりお家に帰ってこなかったから。」


「ふむ、では母親がどこに行っていたか心当たりはあるか?そんなに家を空けているのには理由があるだろう。例えば仕事とか……何か聞かされていないか?」


「お母さんはいっつも男の人に迎えに来てもらってた。それしかわからない。」


「男か、それは父親ではないのか?」


「違うよ。僕のお父さんは、僕が赤ちゃんの頃に死んじゃったんだって。」


「ふむふむ、では母親とその男は親しそうに見えたか?」


「すごく仲がよさそうだったよ。ちゅーしたり、裸んぼでぎゅって抱き合ったりしてたもん。でも男の人は僕のことが嫌いだったんだ。」


「……ふむ、よくわかった。質問責めにして悪かったなマドゥ。」


 カリンはぽんぽんとマドゥの頭を撫でると、俺の耳元でぽつりとあることを囁いた。


「社長、此方は理解してしまったぞ。」


「俺も理解してしまいました。」


 このマドゥという少年のことが少しわかったのは大きな進展だったが……話を聞いている限り、家庭環境は最悪そうだった。おそらくマドゥを捨てたのは、母親の強い意志によるものだろう。自分が愛した新たな男と暮らすために……マドゥを捨てたのだ。

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