不毛の地


 次に目を開けると、俺は草木一つ無い枯れた大地の上に立っていた。隣にはカリンがいる。


「無事に転移できたようだな。」


「ここが、未開の大陸……。」


 朝だというのに周りは薄暗く、黒い霧のようなものが漂っている。


「では此方はナルダの魔力を探すことに集中する。社長、護衛は頼んだぞ。」


「わかりました。」


 するとカリンは目を閉じて、何かを探るようにしながら、前に進んでいく。そんな彼女の後ろにピッタリとくっついて、辺りを警戒しながら俺も進んだ。


(にしても、この空気……何か体の力が抜けるような、変な感じがする。)


 黒い霧を吸い込むと、体の力が抜けるような変な感覚に襲われる。その感覚に顔をしかめていると、カリンがそれを察したようにポツリと呟いた。


「この黒い霧は、魔力を奪う霧だ。見ての通り、生命の欠片もないようなこの大地は、魔力の源である魔素を生み出すことができない。だから、命あるものから魔力を奪うようになった。」


「それがこの黒い霧ってわけですね。」


「そういうことだ。この霧があるせいで、なかなか調査が進まんのだ。いつもいいところで魔力切れになる。」


 歯がゆそうにカリンは言った。


「だが、今回は社長がいる。無駄にこの大地の原生生物に魔力を割く事なく、ナルダの捜索に集中できるだろう。」


 そうカリンが言った次の瞬間……ものすごい勢いでこちらへ向かってくる気配を感じ取った。


「何か……来る。」


「一つ警告しておくぞ社長。この大地の原生生物は、魔力が無い。故に素の身体能力がとてつもなく高い。気をつけろよ?」


「警告、ありがたく受け取っておきますよ。」


 気配の近づいてくる方向へ、警戒心を高めていると……こちらへ向かってきていたものが何なのか、やっと視界に映った。


「なんだあの化け物は……。」


 こちらへものすごい勢いで近づいてきていたのは、ライオンの頭をした二足歩行の巨人だった。


「バフォメットのライオンバージョンか?」


 そのライオンの巨人は、足元にあった巨岩を手で鷲掴みにすると、こちらへ向かって投げてきた。


「っ!!めちゃくちゃやってくれるな。」


 咄嗟に龍桜を使って、その岩の前に立った。


「フンッ!!」


 迫ってきたその岩を下から蹴り上げ、無理矢理方向を変えて直撃を回避した。それとほぼ同時……岩の陰からライオンの巨人が姿を現し、鋭い爪のついた剛腕を振り上げていた。


「ガァッ!!」


「視界を潰して、距離を潰すなんて知能もあるのか。」


 その腕を躱しながら懐に潜り込み、鳩尾みぞおちへ拳を叩き込んだ。


「ん?」


 ヒットした感触が軽く、違和感を覚えていると、ライオンの巨人は派手に後ろに吹き飛びながらも、軽やかな着地をしてみせた。


「なるほど、直撃寸前で後ろに跳んだか。」


 カリンの警告の意味がよくわかった。魔力を使わなくても、身体能力だけで戦えるように、ここの原生生物は適応してるんだ。


「でも、そっちの方が俺は得意だぞ。」


 魔法という搦め手がない純粋な実力勝負……それは俺の専売特許だ。

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