解体見学


 グリズ達がオークを解体する様子を、じっと眺めていると彼らは少し恥ずかしそうにこちらを見た。


「そんなに真剣になって解体の様子を見つめて、どうしたんだい勇者様。」


「ん、あぁ……このぐらいの魔物は自分でも解体ができるようになりたくてな。ちょっとグリズ達のやってる姿を見て、勉強させてもらってたんだ。」


 獣に近い姿の魔物であれば、俺の知識がある程度通用するから解体はできる。

 しかし、今回のような二足歩行で人型のオークだったり……俺が日本で触ることのなかった姿の魔物には、なかなか手が出せないのだ。


「特にこう……オークみたいな人型の魔物の解体はどうやるのか、俺自身興味があったんだ。」


「ほぅほぅ、なんだそういうことだったのか。」


 納得したように頷くと、グリズはオークの解体を進めながら、説明を始めた。


「人型の魔物も、獣の魔物も解体の手順は同じ。まずは血抜き、そんで頭を落として内臓を綺麗さっぱり抜く。後は背骨に沿って肋骨を断ち切り、一つずつ部位を摘出してくんだ。」


 説明しながらもスルスルと作業を進め、グリズはどんどん一体のオークを肉の塊へと変貌させていく。


 それをじっと眺めている最中、俺は魔物の解体が、とある調理の方法に似ていることに気がつく。


(なんだろう……オークの上半身の解体は、魚の三枚おろしに似ているところがあるな。)


 例えば、背骨に沿って刃を入れていくところとか……肋骨から胸肉を外すところなんて、魚の腹骨を包丁で取る作業に酷似している。


 そんな共通点をしっかりとメモしながら、俺はグリズ達がオークを解体する様子をこの目に焼き付けた。


 いざ解体が終わると、グリズが種類分けされた一つ一つの肉の塊を指さして、胸肉やバラ肉……モモ肉などなどと部位の説明までしてくれた。


「そんで……コレがオークの汗腺。臭いのもとだ。」


 オークの汗腺は丸い袋のような形状で、ちょうどオークの腋の内側にあったものだ。グリズ達がこれだけは、超慎重に摘出していたのを俺は見ていた。


「ちなみに興味本位で聞くけど、それを潰したら……どうなる?」


「まぁ、この中に入ってる液体が服についたら、1週間は匂いが取れないな。それに、常に魔物を誘引するから、下手したらこの匂いを求めて魔物が街に押し寄せてくるかもな。」


 お、思っていたよりもヤバい物質だった。取り出すのも滅茶苦茶難しそうだったし。もし今度オークを倒す機会があっても、自分では手を出さずここに持ってこよう……。


 そう俺は改めて決心したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る