見守るカリン


 ユリが去っていったのを見送ると、背後から音もなくカリンが現れた。


「ユリが少々迷惑をかけたようで、すまなかったな社長。」


「全然迷惑なんかじゃないですよ。初めての挑戦だったので、多少の失敗は当たり前です。それを迷惑だと思ったり、怒ったりする方が間違ってます。」


 これはあくまでも俺の持論だけどな。新しいことに挑戦して、失敗することは大いに構わない。仮に失敗して、怒られて……それで新しいことへの挑戦を続けられなくなったら、その人の道が一つ途切れてしまう。


「それに、ユリはどうやって仕事に臨むべきなのかがわからなかっただけで、コツを掴んだらあっという間に覚えてしまいましたから。」


「…………そうか。」


 一つ頷いたカリンは、少し嬉しそうな表情を浮かべている。


「では社長よ、これからも此方の娘を宜しく頼む。」


「任せてください。」


 それだけ言って、カリンは姿を消した。恐らく今頃は、もう屋敷へと戻っていることだろう。


「さて、俺も帰るか。」


 今日もフィースタが美味しい夕食を用意して待っていることだろうからな。


 そしていざ帰ろうとした時……頭の上に乗っていたメリッサのハチが何かを感知したらしく、ヴヴヴ……と激しく羽音を鳴らし始めた。


「どうしたんだ?」


 そう問いかけると、ハチは前足である方向を指し示す。


「向こうに行けば良いのか?」


 その問いかけにハチはブンブンと何度も首を縦に振る。


「わかった。行ってみよう。」


 ハチに指し示された方向へと進んでいると、生ぬるい……嫌な空気がながれていることに気が付く。


「この空気……すごく嫌な感じだ。」


 嫌な空気を掻き分けながら進んでいると、この国を守る兵隊エルフ達が、防衛線を敷いている場所まで歩いてきてしまった。


「あれ?お菓子売りの人間さん、こんな夜中にお出掛け?」


 俺に気付いた兵隊エルフの一人が、高い木の上から降りてくる。


「なんか、こっちの方から凄く嫌な気配を感じたんだ。」


「嫌な気配?私たちの監視網には特に何も引っかかってないけど……。」


 不思議そうに彼女が首を傾げていると、彼女の背後で草を踏みしめるような音が鳴った。


「……!!」


 それとほぼ同時に、何かが高速で彼女に放たれる。


「ちょっとごめんよ!!」


「わぁっ!?」


 彼女の手を引っ張ってその場から避難させると、次の瞬間……先程まで彼女がいた位置にピンク色の細長い何かが突き刺さっていた。

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