ユリの前途多難な研修


 みんなエプロンに着替えたところで、早速仕込みが始まり、ユリの研修も始まったのだが……。


「ご、ごめんなさーい!!」


「はわぁ…だ、大丈夫ですよぉユリさん。焦らないでくださいねぇ。」


 やはりというかなんというか、初めての慣れない作業はユリには難しかったらしく、些細な失敗に慌てふためいていた。


「ふむ。」


 俺は片手間でフルーツ大福を一つ作ると、それを手に取って慌てているユリのもとへと向かった。


「ユリ、こっち向いてくれ。」


「へ?しゃちょ……むぅっ!?!?」


 こっちを振り向いたユリの口の中にフルーツ大福を詰め込んだ。


「んむむっ……。」


「ユリ、焦りは失敗を生む。そもそも初めてなんだから、失敗は悪いことなんかじゃない。失敗は自分を成長させる糧だと思うんだ。」


 口に詰め込まれたフルーツ大福をゆっくりと食べて、ゴクンと飲み込んだ彼女は少し落ち着きを取り戻したようだ。


「美味しかったか?」


「う、うん……すごく美味しかった。」


「よし、少し落ち着いたな。」


 落ち着きを取り戻した彼女に、改めてアドバイスをする。


「ユリは魔物と相対した時……焦って攻撃するか?」


「いや、常に冷静を保ち相手の動きを見切る。」


「うん、落ち着いていれば相手の動きが良く見えるな。それと同じだ。落ち着いていないと、自分が何をしているのかさえ分からなくなる。」


「つまり、狩りの時のように自分を常に落ち着かせれば良いということか。」


「その通り。自分の経験が一切通用しないなんてことは無いんだ。ユリには狩りの経験があって、それで身に着けたことを活かせばいい。」


 そうアドバイスしてあげると、ユリは少し考え込んだ後にスッと目を閉じた。そして次に目を開けたときには彼女から焦りの色はすっかり消えてしまっていた。


「これでやってみよう。」


「その意気だ。わからないことがあったら誰にでも聞いてくれ。」


 落ち着きを取り戻したユリは、先ほどまでの彼女とはまるで別人のようだった。教えられたことをあっという間にマスターし、次々に新しいことを取り込んでいった。


 そして仕込みを無事に終えると、みんなが帰っていくのをユリと二人で見送った。


「はぁぁ……つ、疲れたぞ。」


 今日の疲れがどっと襲い掛かってきたらしく、ユリはその場に座り込んだ。


「お疲れ様だったな。どうだった?」


「最初こそ、慣れない作業に慌ててしまったが……みんなが教えてくれる通りにやったら出来た。」


「それは何よりだ。」


 確かな手応えを感じているユリを見て一安心していると……。


「あ、明日も来ても良いだろうか?」


「もちろん、ユリももう立派な社員だからな。」


 嬉しそうにガッツポーズをして感傷に浸っている彼女に、俺はお菓子を詰め込んだ袋を手渡した。


「これは、今日のお給料だ。帰ったらカリンと一緒に食べると良い。」


「あ、ありがとうヒイラギ社長!!明日もまた来るぞ!!」


「あぁ、お疲れ様。」


 大事そうに袋を抱えて、ユリは走って帰って行った。


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