甘味の虜


 マンドラアイスクリームを受け取ると、カリンは早速粒あんの存在に気がついた。


「む?これはどら焼きの中に入っている……黒く甘い豆だな。」


「粒あんですね。それと一緒にアイスを食べてください。」


「わかった。ではいただこう。」


 カリンはマンドラアイスクリームに、たっぷりと粒あんを乗せてから頬張った。すると、カッと目を見開く。


「むぅっ!?舌の上で溶けていく……だと!?溶けたものが粒あんと混ざり、更に美味さを増していく。」


 カッと目を見開きながらも、カリンの食べる手は止まらない。


「甘さの中に、マンドラ茶のほろ苦さがあり……それがまた粒あんの濃厚な甘さと相性が抜群だ。」


 完璧な食レポを披露して、カリンはマンドラアイスクリームを食べ終えてしまう。


「うむむ、どら焼きも革新的な甘味だったというに、この冷たくとろけるマンドラアイスクリームも、なんと革新的な……。」


 無くなってしまったマンドラアイスクリームを、名残惜しそうに眺めるカリン。


「このような革新的な甘味が、人間の国では一般的なのか?」


 その問いかけに、俺は首を横に振った。


「いえ、違いますよ。」


「では知る者ぞ知る、秘伝の甘味か?」


「それもまたちょっと違いますね。」


「むむ?どういうことだ?」


「これを作れるのは、多分この世界には俺一人です。決して驕ってるわけじゃなくて、それが事実なんですよ。」


 それを聞いたカリンは、改めて俺にある質問を投げかけてくる。


「……ますます不思議な奴だ。言葉に嘘偽りがない。」


 呆れたように彼女は笑うと、フワリと宙に浮いて俺の服の襟を掴んで、自分の方にグッと引き寄せた。


「お前は一体何者だ?」


「その答えは、俺のお願いを聞いてもらってから答えますよ。」


「今はまだ話せんというわけか。……ふ、まぁいい悪意がないのはわかった。」


 そしてパッと手を離すと、改めて指を3本立てて注文を言ってくる。


「では、改めてマンドラアイスクリームを3つくれ。」


「ありがとうございます。」


 溢れないようにカップに詰めて、マンドラアイスクリームをカリンに手渡した。


「溶けやすいので、氷の魔法で冷やしておくと良いですよ。」


「承知した。では、また来る。」


 上機嫌でカリンは去っていくと、再び行列を成していたエルフ達が押し寄せたのだった。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る