世界樹の雄木


 買い物と観光をしながら、ヴェールの街中を歩いていると、中心部に不思議な木が生えているのを発見した。


「あれは……もしかして、この国に一本しかないって木かな?」


 目先にはまるで祀られるように、太いしめ縄を巻かれた大木が聳え立っていた。


「なんか神聖な雰囲気を感じるな。」


「ワシにはただの木にしか見えんなぁ。木を祀るとは……人間の感性はわからんのじゃ。」


 まじまじとレイが不思議そうに眺めている。


「そう言えば、この木……なんて名前なのか知らないな。」


 この前見た文献には、詳しい名前は載っていなかった。試しにどんな木なのか……鑑定してみよう。


「鑑定。」


 そう唱えると、俺の前にこの木の説明が表示された。




 世界樹の雄木


・世界の限られた場所に生える、世界樹の雌木を受粉させる為の花を咲かせる木。




「え?世界樹……?」


 表示された鑑定結果に思わず目を疑ってしまった。すると、イリスが補足して説明してくれた。


「実は、世界樹という木はこの世界に何本か点在しているんですよ。ただ……果実を実らせる雌の木は、エルフの国にある一本しかないんです。」


 その説明は至極わかりやすいものだったが、一つある疑問を俺は抱いた。


「それじゃあ、この木になる果実はいったい?」


「世界樹の雄花は一見果物のように見えますから、それを果実と間違えているのかと。」


「そういうことか。」


 ということは、俺達が明日競り落とす予定の果実というのは……世界樹の雄花ということになるんだな。


「ちなみに、この世界樹の雄花が雌花を受粉させると……何ができるんだ?」


「この世界の栄養と魔力をたっぷりと蓄えた、世界樹の果実ができますね。果汁一滴で、枯れた大地を蘇らせるほどの力があるんですよ。」


「ほぉ〜……。」


 余計に気になってきた。それを食べたらどうなるのだろう?どんな味がする?


「…………その世界樹の果実も気になるけど、何にせよエルフと会えないことには何も始まらないな。」


 実をつけるという世界樹の果実は、エルフの国にある。彼らと接触する方法がない以上、その世界樹を拝むことすらも叶わない。


「なにか、きっかけがあればな。」


 そんなことを願っていると、こちらに沢山の果物を抱えたフレイが走ってきた。


「ひ、ヒイラギさん!!お菓子に使えそうな果物たくさん買ってきたよ!!」


「ずいぶんたくさん買ったな。」


「えへへ、どれもこれも美味しそうで……気になる果物全部買っちゃったんだ。」


 これだけたくさんの種類の果物があれば……色んなお菓子が作れるだろう。ケーキやタルト……フルーツシャーベットとかも美味しそうだ。


「後でこれを使って、一緒にお菓子作ってみるか?」


「うん!!」


 フレイとそんな約束を交わしていると、先に買い物に走っていたシア達も、たくさんの野菜や果物を抱えてこちらに戻ってきた。

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