果実の在り処は……


 ヴェールならではの果実や野菜等などを色々と買い漁っていると、向こうの方からトボトボとリリン達が歩いてきた。


「あれ?リリン、例の果実はどうだったんだ?」


「それなんだけど……昨日採れた後、すぐに別の場所に運んじゃったみたいで、ここには無いらしいのよ。」


 ガックリと項垂れながら、リリンはそう報告した。


「ふむ、運んだ……ってなると誰かに献上するためとか?」


「そうじゃないらしいわ。なんでもこの街の財源の殆どは、その果実を売ったお金で賄ってるらしいの。」


「……つまり?」


「この国で最も盛んな競売に出品したらしいわ。」


「なるほど、そういうことか。」


 果実が手に入らなかったことを嘆く、リリンとフレイ。まだ手に入らないと、決まったわけじゃないんだがな。


「その競売をやる場所とか日時って、聞いてきたか?」


「え?ば、場所?」


「あぁ。」


「えっと……確か王都の地下にある競売場って言ってたわよね?」


 リリンがそうフレイに確認を取ると、フレイは何度も頷いていた。


「競売は明日の夜にやるって、言ってたよ。」


「そうか、なら……諦めるのはまだ早いな。」


「「え?」」


「条件が単純になったじゃないか。その競売で俺がその果実を競り落とせば良いんだろ?」


 譲ってもらえるように交渉したりとか、そういう面倒な入手方法よりかは、よっぽど単純明快だ。


「で、でもボク達の為だけに……いいの?」


「何も二人のためだけってわけじゃないぞ?もちろん、俺もその果実のことは気になってるんだ。」


 願わくば……二人が食べる前に、ほんの少しでいいから味見をさせてもらいたい。どんな味なのか、ものすごく興味がある。


「ま、明日までまだ時間はあるし……二人もこれで何か好きなの買ってくれば良い。」


 そして俺は、リリン達にもお小遣いを手渡した。


「明日の競売のことは俺に任せて、今はこの時間を楽しめば良いさ。特にフレイは、お菓子作りに使えるような果物とか、そういうのを探してみたら面白いと思うぞ?」


「あ、ありがとうヒイラギさん!!ボク行ってくるよ!!」


 お小遣いを受け取ると、フレイはスキップしながら行ってしまう。それを見送っていると、リリンが俺の服の裾をキュッとつまんできた。


「あ、ありがと……。」


「ん、良いんだ。」


 ポンポンとリリンの頭を撫でると、彼女は恥ずかしそうにしながら、フレイの後を追って行った。


 そんなヒイラギ達の会話を、影でひっそりと盗み聴いていた者が一人……。


の在り処は王都……。人間の温床か。少々危険だが、私達にはアレが必要だ。」


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