グレイスに起きた異変
不意に体を撫でた冷たい風で、俺は目が覚めた。
「ん……んん?あ、そういえば昨日は椅子で寝たんだったな。」
あの宴会の後、皆を大きなベッドの上に寝かせて、俺は一人椅子に腰掛けて眠ったのだ。
固まった背筋をぐ〜っと伸ばしていると……。
「うぅ……。」
なにやらうめき声のような声が聞こえてきた。とっさにベッドの方に視線を向ける。
てっきりドーナか、ランのどちらかが二日酔いで苦しんでるのかと思ったが、みんな安らかな顔でスヤスヤと寝息をたてている。
「ん〜、俺の聞き間違いだったかな。」
チラリと窓の外を見るが、まだ少し薄暗い。まだ二度寝してもいい時間だな。
そして再び目をつぶろうとしたその時だった……。
「うぅ……。」
またしても呻き声……今度ははっきりと聞こえた。聞こえたのはベッドからじゃない。
恐る恐る呻き声が聞こえた方向を覗いてみるとそこには……。
「グレイス?」
そこにはシアの胸で眠っていたはずのグレイスがいた。床の上でうずくまり、体をプルプル震わせている。明らかに様子がおかしい。
「大丈夫か?」
「うぅ……。」
声をかけるが呻き声をあげるだけで、返事が帰ってこない。
グレイスの身に何が起こっているのかわからず困惑していると、予想だにしない変化が起こった。
「ん、んぐ……うぅ~っ!!」
突如グレイスの体がボコボコと盛り上がり始めたのだ。
「い、いったい何が起こってるんだ!?おいグレイス、大丈夫なのか!?」
直後、グレイスの背中にビシッという音とともに亀裂が入る。
「これは……まさか。」
背中に入った亀裂がどんどん広がっていき……そして。
「ん~~!!っはぁ~、きれいに脱げたっす〜。」
バキバキと音をたてながら、グレイスの中からグレイスが出てきた。
出てきたグレイスは、以前のグレイスとは少し体の形が違う。それに色も少し変わっていた。
紅葉し始めた葉っぱみたいな、淡い黄緑色になっている。前は深緑色だったんだけどな。
「あっ!」
脱皮したての体を動かしていたグレイスと目が合う。
「ヒイラギさんおはよっす!!」
「あ、あぁおはよう。」
こちらに気が付いたグレイスは、いつもと変わらない様子で挨拶をして来た。
「それって……
「よく知ってるっすね~。これだけ体が成熟してると、脱皮って本当はしないはずなんすけど……なんかしちゃったっす。」
グレイス自身、なぜ自分が今のタイミングで脱皮したのかわかっていないらしい。
「でもこの脱皮直後ってやっぱり慣れないっす。鱗はプヨプヨだし、体は粘液でヌトヌトだし……。お風呂入りたいっすね。」
「……ちょっと触ってみてもいいか?」
「別にいいっすけど、粘液で汚れちゃうっすよ?」
「構わない。」
グレイスに許可をもらったところで、早速人差し指で体に触れてみた。
いつもとは違いプニプニした感触だ。
(おぉ……すごいな。脱皮したてのソフトシェルの甲殻類みたいに鱗も柔らかい。触ってるとクセになりそうな感触だ。)
「あ、あの〜ヒイラギさん?そろそろ……。」
「あ、すまない。」
もう少し感触を味わいたかったが……ストップがかかってしまっては仕方がない。
それにしても脱皮か、何が原因でこうなったのだろうか?同じ龍繋がりなら、ランに聞いてみればわかるかな?
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