グレイスが一番


「あれ……シアがやったのか?」


「うん、大事なお洋服破かれちゃったから……怒ってやっちゃった。」


 凄いな……いったいどうやったらこんな感じになるんだ?


 まじまじと頭が地面に消えている山羊を見てそう思う。ピクリとも動いていないし、もう生きてはいないだろうな。


「取りあえず引っこ抜いてみよう。」


 ピンと伸びた足を両手で掴み、真っ直ぐ上に引っ張る。


 するとズボッと埋まっていた頭部が地面から抜けた。一度横たわらせ毛並みを確認してみる。


「毛の手触りからして、例のミストゴートに間違いなさそうだな。」


 ミクモの店で触ったあれと全く同じ触り心地だ。後はこいつをどうするかだな。


「さて……こいつをどうしようかな。」


 生憎こういうような魔物の解体については素人も同然だからな。鶏の解体ならできるんだが……。


 すると、ランがある提案をしてくれた。


「あそこに持っていったらいいじゃない?ほら…えっと魔物肉専門店だったかしら?」


「確かにそうだな。あそこなら上手く解体してくれるだろう。」


「魔物肉専門店?」


 あぁそうか、あの時ドーナは店内までついてきてはいなかったから、わからないんだな。


「市場の中にある、魔物の肉を専門で扱ってる肉屋だよ。」


「へぇ~、いろんな店があるんだねぇ」


 あそこに持っていけば、きっと毛皮から何から何まで綺麗にやってくれるだろう。

 ミストゴートをバッグにしまいこみ、帰る準備を進めていると、シアに服の裾を引っ張られた。


「お兄さん、さっきのヤギさんって食べれるのかな?」


「ん〜、多分食べれると思うぞ?」


 向こうの世界だと、山羊の肉なら刺身で食べてた文化もあるしな。

 ブラックペッパーとかの香辛料に浸けて、ステーキにしてもおいしいと思う。


「ただ、ちょっとクセがあるかもな。」


「くせ?」


「あぁ、何て言えばいいか……。あ~好きな人と嫌いな人が別れる味だな。」


「なんか不思議だね!!」


 山羊肉を食べる話をしていると、グレイスがパタパタとこちらに飛んできた。


「今日は肉っすか!!」


「多分な。」


「やったっす!!今日はいっぱい食べるっすよ~!!」


 嬉しさからか私の周りをぐるぐると飛び回り始めた。


 そして飛び回るグレイスをシアが捕獲し、いつものポジションに抱き抱えた。


「えへへぇ~、やっぱりグレイスが一番♪」


「ぐえっ!?し、シアちゃん……そう思うならもうちょっとやさしく……うっ。」


(あ、落ちた。)


 ギュ~っとシアに抱き締められたグレイスは、いつものように白目をむきながら落ちていた。

 心なしかいつもより強く抱き締めているようにも見える。


 まぁ、よかったなグレイス。お前はあんな風にはならなさそうだぞ。


 シアの手によってできた、巨大なクレーターをチラリと見てそう思うのだった。

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