美貌を求めて


 いただきます……という言葉を皮切りに、女性陣はロックリザードの角煮に飛び付いた。

 女性の美への執念は凄まじいことを、俺は目の当たりにしている。


 普通の料理は嗜む程度と言っていたリリンでさえ、大量に取り皿に肉を取って食べている。

 そしてそれはフレイも同じだった。そんなに食べて吸血に支障はでないのだろうか……。


 そんなことを思っていると、シアに声をかけられた。


「お兄さん!!シアも欲しい!!」


「わかった、このぐらいでいいか?」


 ロックリザードの角煮を取り皿に四個とって、シアに確認すると……シアはブンブンと激しく首を横に降った。


「もっと!!シアもキレイになりたいの!!」


 おぅ…まさかシアまでも美に貪欲だったらしい。まぁたくさん食べてくれるぶんには一向に構わないが……。


 更に追加で二つ角煮を盛り付けて、シアにお皿を手渡した。


「ほい、これ以上は乗らないから、食べ終わってから次の取ろうな?」


「うん!!お兄さんありがと!!」


 そしてシアもみんなに負けず劣らず、凄い勢いで食べ始めた。

 夢中になって食べているせいか、肉汁が頬に飛んでしまっている。


「ほら、あんまり急いで食べるから頬が汚れてるぞ。」


 濡れタオルでシアの頬についた肉汁を拭き取ってあげる。


「はい、いいぞ。急がなくても料理は逃げないから、ゆっくり食べな?」


「えへへぇ~、うん!!わかった!!」


 さてさて、俺もそろそろ食べないと全部食べられそうな勢いだ。


 隙を見計らって、取り皿に何個か肉を取って箸でつまみ口へと運んだ。

 口に入れた瞬間に肉がトロッと溶けてほぐれていく……。全然筋っぽさなんて感じない。

 そして歯で噛むと、甘い肉汁がジュワッと溢れ出てくる。


「うん、美味しい。ご飯にも合う最高のおかずだ。」


 ロックリザードの角煮を堪能していると、向かいに座っていたシンも大きく頷きながら角煮を食べていた。


「うむ、あの筋っぽく硬いロックリザードの肉がここまで柔らかく……美味しくなるとは驚きだ。」


 どうやら彼もロックリザードが筋っぽいということは知っていたらしく、食べたときの食感に驚いていた。


「こういう硬い肉でも、ちゃんと食べられるようにできる方法があるんだ。」


「ふむ、ヒイラギの料理はまるで魔法のようだな。」


 魔法……か。案外間違いじゃないかもしれない。


 地球では科学という一言で説明がつく現象も、こちらの世界では魔法と呼ばれるのだろう。

 そう考えると、こちらの世界では料理とはではなく。


 料理とはなのかもな。


 そんなことを思っているうちに、どんどん角煮は無くなっていき夕飯の時間も終わりに近づいていた。

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