ヒイラギの美味しさ


 ペロペロ…ペロペロ……。


 ん、なんだ?肩の辺りがくすぐったい。深く沈んでいた意識がその異変によって徐々に覚めていく。


「またこの部屋か。」


 目が覚めると俺はまたさっきの部屋のベッドに寝かされていた。かけられている毛布が妙に盛り上がっている。不思議に思いながら毛布をめくると…。


「んにゃっ!?お兄さんもう起きた?」


 毛布をめくると、フレイの噛み痕がある肩をペロペロと舐めているシアがいた。


「シア、何してるんだ?」


「痛そうだったからペロペロすれば治るかなって思ったの。」


 よく見ると噛み痕はまだ少しだけ血が出ていた。シアはそれを心配して舐めていたらしい。


「ありがとな。」


 シアの頭を撫でながらそう言った。それから少しすると、部屋の扉がコンコンとノックされた。


「あ、あの…ぼ、ボクだけど入ってもいいかな?」


「ん?フレイか、入っていいぞ。」


 フレイはそろっと扉を開けて中へと入ってきた。


「あ、あのっ…さっきはごめ……。」


「さっきのことなら気にしてないから大丈夫だ。」


「ふえっ!?な、何で言いたいことがわかったの!?」


「顔にそう書いてあるぞ?」


 そうからかうように言うと、フレイは自分の顔をペタペタと手で触り始めた。そして鏡でちゃんと確認すると、再びこちらを振り向く。


「か、顔にそんな事書いてないよ!?」


「言葉のあやだよ、感情が表情に出てることをそう言うんだ。」


 フレイのそんな姿を見て、笑いをこらえながら教えてあげると、彼女は少しむすっとしながらベッドの上に腰掛けた。


「ふーん、ボクが知らない言葉を使ってからかうのは良くないと思うなっ。」


「悪かったよ、まぁさっきのことはホントに気にしてないから安心してくれ。」


 からかわれたことにムッとしているフレイをそうなだめた。するとあっさりと機嫌をなおしてくれたようで…。


「そっか、安心したよ。」


「怒ってると思ったか?」


「うん、あの時は久しぶりにとっても美味しい血を飲んだから、ついつい夢中になっちゃって。」


 彼女はとても申し訳なさそうに言った。


「まぁ、それだけ体力が落ちてたってことだな。…それで一つ聞きたいんだが、俺の血って吸血鬼からしたら美味しいのか?」


「それはもう…血液に含まれてる魔力の純度が高くて、濃厚で甘くて、すっごく美味しかったよ!!」


 やはり吸血鬼の味覚は少し特殊なようだ。血液が甘いなんて考えられないからな。


 あの時の味を思い出して、今にもよだれが垂れそうになっているフレイ。


 すると横からじー…っと視線を感じたので振り返ると、そこには指を咥えたシアがいた。


「お兄さんって美味しいの?」


 シアのその問いかけで我に返ったフレイが焦って訂正する。


「えっ!?えっとね、うん…ボクにとっては美味しく感じちゃうだけ。多分キミが食べても美味しくないと思う。」


「そうなんだ…残念。」


「俺は美味しくないかもしれないが、その代わり毎日美味しいの食べさせてあげてるだろ?」


「うん!!」


 シアの頭を撫でていると隣でボソッとフレイが何かを呟いていた。


「いいなぁ、ボクもあんな風に…。」


「何か言ったか?」


「えっ!?ううん、なんでもないよ!!」


 そんなやり取りをしていると、またしても部屋の扉がノックされた。

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