第2章

いざシュベールへ


 朝ごはんを食べ終えた後、俺たちは出発の準備を始めた。ハウスキットをマジックバッグにしまい、森から出て、先日買った大きな馬車を出す。


「グレイス、この馬車引っ張れそうか?」


「このぐらいだったら全然余裕っすよ~。」


「そうか、それじゃあ頼むな。」


 グレイスに馬車の装備を着けて試しに少し引っ張らせてみると、軽々と引っ張ってくれている。この分なら問題なさそうだ。


「よし、みんな乗っていいぞ~。」


「シアがいちばーん!!」


 シアが元気にはしゃぎながら、とててて~っと馬車に駆けこんでいった。


「それじゃあアタイ達も行こうか。」


「そうね、そうしましょ。」


 そのあとにドーナとランの二人が続いて入っていく。


「後は俺が手綱を握ればいいか。」


「お願いするっすよ~、この道を真っ直ぐ行けばいいんすよね?」


「あぁ、そうだ。頼んだぞ。」


「任せてくださいっす!!それじゃあ行くっすよ~。」


 グレイスが一歩大きく踏み出すと同時に、ガラガラと馬車が動きだしシュベールへと進み始めた。




 そして、シュベールへと向かって進むこと30分ほど経っただろうか。グレイスがある異変を察知した。


「ヒイラギさん、さっきから何人かつけてきてるっす。」


「わかってる、取りあえずこのまま進んでくれ。相手の出方を見よう。」


「了解っす。」


 ほんの10分ほど前から、何者かがこの馬車をつけてきているのだ。


「みんな、さっきからつけられてるから警戒しておいてくれ。」


「わかったわ……って言っても、ただの人間に負ける気はしないわね。」


「馬車を狙う手口……最近ギルドに届け出があった盗賊の手口にそっくりだねぇ。」


 盗賊……確かに依頼書で見た気がするな。面倒事は勘弁して欲しいんだが……。


 それからすこし進むと、開けた場所に出た。


 仕掛けてくるならここだろうなと予想していると。


「オイ!!その馬車置いてけ!!さもねぇとぶっ殺すぞ!!」


 ぞろぞろと10人ぐらいだろうか、男たちが茂みの中から出てきて馬車の前に立ち塞がった。


「グレイス、ちょっとここで待っててくれ。」


「え?あ、はいっす。」


 俺は1人で盗賊達の前に立った。


「この馬車を渡すつもりはない。お帰り願おうか。」


「ギャハハ!!おめぇこの人数相手にどうしようってんだよ?」


「ワイバーンが馬車を引っ張ってるのには驚いたが、それを見た限りテメェ魔物使いだろ?雑魚じゃねぇか!!」


 どうやらこの盗賊たちは、俺の事を魔物使いという職業と勘違いしているらしいな。


「頼みのワイバーンは馬車引っ張ってて動けねぇってのに、おめぇは1人だろぉ?おとなしくその馬車おいてった方が身のためだぜぇ?」


 勘違いも甚だしいな。


「はぁ、わかった。なら死にたいやつから先にかかってこい。」


 相手は大人しく馬車を渡さなかったら、こちらを殺してでも奪い取るつもりだ。ならばこちらも遠慮はいらない。


「へへぇ、じゃあ死ねや!!」


 血気盛んな男が一人、飛び出してくると上段から雑な大振りの剣擊が落ちてきた。


 しかしその攻撃は、半歩右にずれただけで空を切ることになる。そして流れるように俺は手刀を男の首に押し当てた。


「内断。」


 この技は人に対して、かなり有効な殺人技だ。手刀で頸動脈を押し潰し…螺切る技。言っていることは簡単だが、実践してみると結構難しい。

 皮膚と筋肉に守られた頸動脈を螺切るにはどうするか?この技を取得するためには、ある程度の医学も学ばなければならない。


 そして頸動脈を切られるとどうなるか……答えは簡単である。


「ぐぼぇあっ!!」


 首で大量の内出血を起こし、最終的に皮膚が耐えられなくなり弾けとぶ。


 倒れる男に目もむけず、俺は固まっている残りの盗賊たちに視線を送る。


「さぁ、次はどいつだ?」


「な、舐めやがって全員で行くぞ!!」


 なるほど全員で来るか、物量は力になりうるが……。統率がとれていなければ意味はない。


 正面から振り下ろされる剣を懐に潜り込み無力化し、腕をつかんで地面に顔面を叩きつける。


 これで1人。


 そして仲間がやられて、一瞬体が固まっているやつの頸動脈を螺切る。


 これで2人。


 そして残りの盗賊も攻撃を避け、流し、必殺の一撃を叩き込み仕留めていった。


「……終わったな。」


 盗賊たちを片付け、一つ大きなため息を吐いているとグレイスが馬車を引いてこちらに歩み寄ってきた。


「ヒイラギさん、お疲れさまっす。 」


「あぁ、先へ進もう。」


 この場所にとどまるのはあまり気分の良いものではない。


 初めて人間を殺めた感触が残る手で、馬車の手綱を握り先を急ぐのだった。

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