ドーナとランの模擬戦


 俺の提案にドーナが何か考えがあるらしく話し始めた。


「そういうことなら……うってつけのいいのを知ってるよ。」


「それは?」


「ギルドが管理しているってやつなんだけどねぇ。そこの攻略報酬がいい資金になるはずだよ。」


「そんな情報知らなかったな。」


「ヒイラギには話してなかったからねぇ。ここのギルドが管理しているダンジョンは、やたら魔物が強くてねぇ。冒険者時代のアタイで何とかって感じだったんだよ。だから一般の冒険者を入れるわけにはいかなかったってわけさ。」


「なるほど、そういうことか。」


「ちなみにギルドが出す報酬は、大奮発の白金貨20枚だよ。とはいっても、未だに誰もボスを倒せてないから、報酬金がここまで跳ね上がっちまったんだけど。」


 ドーナが苦笑いしていると、ランが彼女に問いかけた。


「それってワタシたちも一緒に入れるのかしら?」


「そうだねぇ、一回実力を見せてもらえるかい?」


「えぇ、いいわよ。ただ怪我しても知らないからね?」


「へぇ、言うじゃないか?それじゃあちょっと表出な。」


 バチバチと火花を散らしながら二人は外へと向かう。その姿をため息交じりに眺めていると、シアに袖を引っ張られた。


「お兄さん、シアも一緒にダンジョン行きたい。」


「うーん、なら約束して欲しい。俺から絶対に離れないでくれるか?」


 守れる範囲というのは限界があるからな。それだけは守ってほしい。そうお願いするとシアは目を輝かせながらコクリと頷いた。


「うん!!約束する!!」


「そうか、なら大丈夫だ。一緒に行こう。」


 シアと約束を交わしていると、外から衝撃音が聞こえ始めた。どうやら二人の戦いが始まったらしい。


「シア、二人の戦いを見に行こうか。」


「うん!!」


 二人でドーナとランの戦いを見に行った。ハウスキットの外では二人による凄まじい戦いが繰り広げられていた。


「やってるなぁ。」


 二人が高速で動き、打ち合っている。まだお互いに決定打はないようだ。


 戦いを見物していると、けたたましい音で二人の拳がぶつかり合い動きが止まった。直後お互いに距離を取り、間合いを測る。


「ランは意外と人間の姿でも結構やるなぁ、ドーナはレッドドラゴンの宝玉を食べたから、更に前よりスピードもパワーも上がってるみたいだ……。ステータス的には多分ドーナが分があるが……どうなるかな。」


 二人の戦いを眺め、考察していると二人の殺気が膨れ上がるのが肌を通してピリピリと伝わってきた。どうやら次で決めるらしい。


 決着をつけること……それはいいんだが、さすがにヒートアップしすぎだな。


「シア、ちょっとここに居てくれよ?」


「えっ!?」


 目の前で二人の姿が掻き消えた。そしてお互いに必殺の一撃を繰り出そうとした瞬間に、俺は二人の間に割り入る。


「そこまでだ。」


 二人の拳を掴み、反時計回りに体を回転させながらしゃがむ。こうすることで左右から飛んできた拳を無力化しつつ二人を止めることができるのだ。


「二人とも少しヒートアップしすぎじゃないか?」


「あはは~、意外とドーナが強かったからつい……ね?」


「アタイも面白かったからついつい……。」


「気を付けてくれよ?模擬戦は寸止めが基本だ。」


 仮に止めていなければ、どちらかが怪我をしていたことは間違いない。気を付けるように二人に注意を促した。


 そしてランは、ゆっくりと立ち上がるとドーナに問いかける。


「それで、ワタシは合格かしら?」


「あぁ、文句なしの合格…ダンジョンに潜るには十分さ。」


 終わってみればドーナとランも打ち合ったことで、少し打ち解けた感じがする。終わり良ければ総て良しだな。


 さて、それじゃあいよいよ……ダンジョンとやらに行ってみようか。

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