二人の本当の恋敵
一悶着ありながらも、ひとまず料理を食べてくれる様子のラン。
「それじゃあいただくわ。」
俺の作った三日月草をふんだんに使った薬膳料理を、一口食べた彼女は思わず口を手で覆い目を大きく見開いた。
口に合わなかったのかと思い一瞬不安になったが、そんな不安はすぐに払拭される。
「な、なにこれ美味しい。」
ごくりと食べた料理を飲み込んだランがそうつぶやいた。どうやら美味しくなかったわけではなく、美味しすぎて言葉がなかなか出てこなかっただけのようだ。
「口にあったようでよかったよ。」
「口にあったどころの話じゃないわ!!こんなに美味しい食べ物今まで食べたことない!!」
そして、彼女は無我夢中で料理を食べ始める。料理を美味しそうにほおばるランを眺めていると、ドーナが俺にある質問を投げかけてきた。
「そういえばヒイラギ、ランがさっきドラゴンとか何とか言ってたけど何のことだい?」
「ん?あぁ、ランはあの赤いドラゴンに襲われていた、もう一匹のドラゴンなんだ。」
「えぇ!?どっからどう見ても人間にしか見えないけどねぇ。」
驚きながらもランのことをまじまじと見つめるドーナに、口いっぱい頬張っていた料理をゴクンと飲み込んだランが言う。
「そりゃあそういうスキルだもの、でもステータス的にはドラゴンの状態と変わらないわよ?」
人間の状態でドラゴンと同じ能力か、どっかの誰かみたいだな。
なーんてことを思っていると、ランの前に配膳されていた料理があっという間に無くなっていた。
「ふう、美味しかったわ。ごちそうさまでした。」
ナプキンで口元を拭きながら、ランが満足そうに一つ溜息を吐いた。
あの量をもう食べたのか?胃袋はドラゴンのままだと言っていたが、あの言葉に間違いはなかったらしい。
「それで、体のほうはどうだ?三日月草を料理に使ったから、少しでも回復してるといいんだが。」
「体力的にはもう万全だけど、少し見てみようかしら」
そう言った彼女の背中から蒼色の翼が生えた。その翼はここに来る前とは違い、ボロボロになっていた翼膜が綺麗に再生し、目立つような傷はすっかり無くなっていた。
「うそ、もう飛べないと思ってたのに。」
「おぉ、きれいに治ってるじゃないか。たくさん三日月草を使った甲斐があったよ。」
「ありがとう……ヒイラギ。」
瞳のふちに少し涙をためながら、ランは俺の手をぎゅっと握ってくる。
そしてさり気なく上目遣いで、こちらにパチパチとウインクしてアピールしてくる。
「ちょ、近いんじゃないかい!?」
焦ったようにドーナが彼女に詰め寄った。そして二人がまた言い争いを始めると……。
「ヒイラギお兄さんはシアの~♪」
いつの間に起きたのかシアが隣に座って、俺にぎゅっと抱き着き顔をうずめてきた。
「ごめんな、起こしちゃったか?」
「えへへ〜、大丈夫。こうしてお兄さんに撫でて貰えるから~♪」
えへへ~とにこやかに笑うシアの頭を撫でていると、言い争っていた二人がぴたりと言い争いをやめて、こちらをじっと見ていた。
「ね、ねぇ?ワタシ達……争ってる場合じゃなさそうね。」
「そ、そうだねぇ、ここは一時休戦としようじゃないか。」
何か通じ合った様子で二人は一時休戦の協定を結んでいた。二人の顔には何やら焦りのような表情も見受けられる。
「えへへぇ~♪お兄さんだーいすき!!」
そんな二人を背に、シアはお構いなしに俺の胸にグイグイと顔を埋めてくる。
そしておもむろにシアが二人の方を向くと、満面の笑みを浮かべるのだった。
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