怒り


(不味いッ!!)


 そう思ったときには既に遅かった。赤いドラゴンは一瞬で空中へ飛び上がり、ブレスの構えをとってしまっていた。


「ハッ、劣等種共々消えて無くなりやがれ!!」


 上空から放たれたその攻撃は、俺ではなくドーナを狙って放たれた。突然のことに彼女は動けないでいる。


「くそッ!!」


 縮地を使いドーナとの距離を詰め、とっさに彼女を茂みの方へ突き飛ばした。その次の瞬間、俺の体はブレスによる熱線に包まれた。


「ヒ、ヒイラギィィッ!!」


「バカが勇者の真似事かぁ?ハハハハハハ!!」


 ヒイラギを燃やし尽くしたと確信した赤いドラゴンは、上空から焼け焦げた大地を見下ろして高々と笑っていた。







 ヒイラギがドラゴンと遭遇する少し前、ギルドにて。


「はぁ~あ、今日も退屈だねぇ。」


 面倒な書類作業を淡々と進めながらぼやく。今日はヒイラギも訪ねてきていないし、特に外での仕事もない。


「これが終わったらまたお菓子でも焼いてみるかねぇ。」


 今日の仕事はこれで終わりだし、またお菓子の練習をしてみてもいいかもしれない。初めて作ったお菓子は意外にもヒイラギには好評だった。

 

 戦闘のことで褒められるより、なぜかこういう側面を褒められるほうが、心が躍るのはどういうことなんだろうねぇ。


「……さてっと、これで終わりだね。それじゃ帰るとするかい。」


 確認をし終えた書類をまとめ、椅子から立ち上がろうとしたその時……。


「はぁっ、はっ!!しっ失礼しますっ!!」


 慌てた様子でミースが扉を開けて部屋へと入ってきた。


 この様子どうやら何かあったみたいだねぇ。ぜぇぜぇと肩で息をするミースの背中に手を置いて、何があったのか尋ねることにした。


「落ち着きな。なにがあったんだい?」


 問いかけると息を整えながらミースは答えた。


「も、森で二頭のドラゴンが目撃されたそうなんですっ!!」


「っな、なんだって!?今行ける奴は!?」


「そ、それが金級以上の人たちが今みんないなくて……。」


「~~~ッ!!そういうことかいっ。」


 最悪なパターンだ、銀級のやつらにドラゴンの相手は荷が重い。仕方ないアタイが行って何とかするしかなさそうだねぇ。


「ミース、常駐してる騎士団に連絡してきな。それまでアタイが何とか時間を稼いでやるよっ。」


 勢いよく部屋を飛び出し森へと急行する。現役を退いてからドラゴンみたいな大物とはやり合ってないけど、少しぐらい時間は稼げるはず。


 森の中を突き進みオーリオの木がある近くに来た時、目の前に予想外の人物が現れた。


「っ!?ヒイラギっ!!」


 思わず目の前に現れたヒイラギの名前を呼ぶと、彼は一瞬苦悶の表情を浮かべた。その次の瞬間…アタイは彼に突き飛ばされた……。


 そしてそれと同時に彼は目の前で業火に包まれた。

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