第1章

ようこそ異世界へ


 視界が一瞬暗転すると、次の瞬間には周りが青々とした木々に囲まれていた。木々の間から少し先には街道のような道も見える。


「本当に……転生したのか?」


 未だに自分の身に起こった不思議な出来事が信じられない。だが、今は受け入れるしかないだろう。


「まぁ、とりあえず歩いてみるか。」


 イリス曰く近くにちゃんと街があるらしいしな。魔物に襲われる前に早いところ着きたい。


 そして俺は先に見える街道へ向けて歩き出した。

 

 街を目指して歩いている最中、俺はイリスにもらったバッグが気にかかった。


「そういえばこのバッグ、いろいろ便利な機能があるって言ってたよな。」


 どんな機能があるのか、詳しく見てみるか。こんな時に便利なスキル『鑑定』これもカオスドラゴンから奪ったスキルだが、イリスの説明では調べたいものの詳細を知ることができるらしい。


「物は試しだ、。」


 そう唱えるとステータス画面のように俺の前に一つの画面が表示された。そこにはこう書いてある。


~鑑定結果~


女神のマジックバッグ


付与効果一覧


・容量無制限

・バッグ内時間停止


バッグ内容物


・ハウスキット

・白金貨 1枚

・金貨 10枚

・銀貨 100枚

・銅貨 50枚




「イリスの言ってた通り確かに中の時間が止まる効果がある。それに容量も無限だ。例のハウスキットのほかにお金まで入れてくれたのか。これはありがたい。」


 これだけお金があればしばらくは不自由しなさそうだ。だが、もちろん使えば減るからいずれは何かしらで稼がないといけないな。


 そんな事を思いながら歩いているとようやく街が見えてきた。


「おっ、見えてきた見えてきた。」


 街が見えてくると自然に歩くペースが少し速くなり、あっという間に街の関所の前に着いてしまった。


 関所の奥に見える街並みに目を輝かせていると、西洋の騎士風の鎧を身に付けた人が声をかけてくる。


「はいキミ、ステータスカード見せて。」


「ステータスカード?」


 聞いたことのない言葉に思わず聞き返してしまった。ステータスオープンならできるが、ステータスカードとはいったい?


「ん?なんだ持ってないのか?それなら銅貨五枚払えば通すぞ。」


「あ、じゃあ銅貨五枚で。」


 よかった。ステータスカードとやらを持ってないと入れないのかと一瞬不安になったが、無用な心配だったようだな。

 だが後々役に立つものだろうから持っておいて損はないだろう。


 そう思いたった俺はその騎士風の男に問いかける。


「ステータスカードってこの街だと、どこで発行できますかね?」


「冒険者ギルドに行くといい。そこで作れるぞ。」


「ありがとうございます。助かりました。」


 冒険者ギルドね、早速行ってみよう。


 そして彼にお礼を言って街に入ろうとすると、一つあることを忠告された。


「あ、そうだ。あそこは荒くれ者が多いから絡まれないよう気を付けてな。」


「はい、気を付けます。ありがとうございました。」


 わざわざ教えてくれるってことは、よほどなのだろう。改めて彼にお礼を告げて俺はいざ、街の中へと足を踏み入れた。


「街並みは中世のヨーロッパみたいな感じだな。」


 辺りを見渡しながら歩いていると、俺はあることに気がついた。


 ヒビの隙間から見た時と違ってここには人間しかいない。見えた景色には多種多様な人がいた気がするんだが……。


 そうこう考えながら歩いていると、あっという間に冒険者ギルドと大きな看板が掲げられた場所についてしまった。


「でっかい看板だ。わかりやすくて助かる。」


 早速中に入ると、むわっと強烈なアルコールの臭いが鼻をつく。


 真昼間から飲んでいるのか。さすがは荒くれものが多いと言われる場所だな。さて、受付らしい場所はあっちかな?人を避けながら受付に向かうと、そこにいた受付嬢に話しかけた。


「いらっしゃいませ!!冒険者ギルドにようこそ~初めてのお客様ですね?登録ですか~?」


 眩しすぎる笑顔で彼女は対応してくれた。元気も良いし、こういう対応をされるとなかなか気分が良いものだ。


「ステータスカードを発行してもらいたいんですけど。」


「それでしたら銀貨三枚になりますっ。」


 銀貨三枚ね。幸い手持ちにある。


 俺はバッグの中から銀貨を三枚取り出して受付嬢に渡した。


「銀貨三枚ちょうどですねっ。それではこのカードの上に血を一滴お願いします。」


 そう言って彼女は俺の前に一枚の白紙のカードと、鋭く細長い針を置いた。


 なるほど、この針で指を刺して血を出せばいいんだな。やり方を理解したところで、早速針で指を刺そうとしたのだが……。


「……さ、刺さらない。」


 針は皮膚に刺さらないどころか、ぐにゃりと折れ曲がってしまった。それを見て受付嬢が目を見開いた。


「あれ!?今までこんなこと無かったのに、本当は血の方が速くて簡単なんですけど。まぁ唾液でも大丈夫なのでそちらにしましょっか。」


「わかりました。」


 血を出すことができなかったので、仕方なく唾液を使ってカードを作った。ちなみにベロを出して唾液を垂らすという方法は、なかなかに羞恥心を刺激された。


 二度目はやりたくない。

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