定番のアイツ


「で、このチュートリアルの達成条件はなんなんだ?」


 頭上に向かって問いかけると……。


《解……ここでは転生後の世界について御自身の体で学んでもらいます。》


 転生後の世界ね。この夢から覚めたら異世界に~……ってか?と、下らない妄想をしていると無機質な声の誘導と共にチュートリアルが進み始めた。


《それではまず貴方の身体能力を調べます。》


 ふむ、身体能力か。いったいどうやって計るのだろう。社会人になってからだいぶ体が鈍っていると思うが大丈夫だろうか?


《まずはこの魔物と戦ってもらいます。》


 そう声が響くと、目の前に複雑に書かれた魔法陣が現れまばゆい光を放ち始めた。そしてその光の中からよくゲームとか漫画で見かけるが出現した。


「おぉ、これってスライムか?ド○クエみたいに顔があるタイプではないんだな。」


 目の前に出現しプルプルと体を震わせるそれは、誰がどう見てもスライムだった。ド○クエで出てくる定番のあいつを思い浮かべていると声が響く。


《この魔物を倒してみてください。尚注意点ですがチュートリアルで死んでしまうと転生出来ませんので頑張ってくださいね。》


 この世界で死んだら目が覚めるのではと一瞬思ってしまったが、普通に死ぬのは嫌なので……。


「はぁ、理解した。」


 一つため息を吐きながら答え、俺は目の前のスライムを観察する。全体的に水の集合体みたいな感じだな、とりあえず遠距離から攻撃してみるか。あれが酸性の液体の集合体だったら困るし。


「取りあえずこれで様子見……ふんっ!!」


 俺は足元にあった石を手に取りスライムめがけて投げつける。勢いよく投げられた石はスライムに直撃し、体の一部を粉々に欠損させることができた。


 がしかし、飛び散ったスライムの破片がもぞもぞと動き再び元に戻ろうとしている。


「再生するのか、やっかいだな」


 俺は飛び散ったスライムの破片に目を向ける。地面からは煙等は出ていない、ということはあのスライムを形成している液体は酸の類いではないな。


「酸じゃないなら打っても大丈夫そうだな。」


 右足に力を込め目の前に飛ぶように走り出す。これを高速で左右繰り返すことにより相手との間合いを一瞬で詰めることが可能だ。

 この歩法は、俺が幼い頃から習っていた合気柔術の基礎にして奥義であるという技だ。


 一瞬で距離を詰め、流れるような動作で攻めの型をとる。後は簡単……握りこんだ拳を全身の関節のバネを使って放つだけだ。


「フンッ!!」


 振り抜かれた拳が命中すると、ドパァンという音と共にスライムが砕け散った。

 その破片のなかに小さな赤い玉のようなものを見つけた。すかさず手を伸ばしその玉を掴む。


「なんだこれ?核みたいなものなのか?」


 飛び散ったスライムの破片を見ると、まだもぞもぞと動いていた。そして飛び散った破片が俺の持っている赤い玉へとゆっくりと向かってきている。


「なるほど、ならこれで終わりだな。」


 赤い玉を握る手に力を込めた。するとビキッという音と共に砕ける。それと同時に今まで動いていたスライムが青い光になって空に消えていった。


 すると今まで黙っていた声が響く。


《おめでとうございます。スライムを倒せたみたいですね。》

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