ヒビの向こうへ


 しばらく辺りを歩き回っていてわかったことが一つある。それは何処へ歩いて行っても、どういうわけか最終的には必ずこのヒビの場所にたどり着いてしまうということだ。


「やはりこのヒビに何かあるな。」


 俺はおもむろにヒビに顔を近づけ隙間を覗いてみた。すると、そこには驚きの光景が広がっていた。


「これは、なんだ?」


 覗いているヒビの隙間の先には見たことも無い動植物が映っている。俺は好奇心を押さえられず、吸い付くように別の隙間を覗いてみた。別の隙間には中世ヨーロッパのような街並みが広がり、人が行き来しているのがわかる。


 その中でも一際興味を引いたのが……。


「これは人間……なのか?」


 映っているものを見て自分の目を疑った。なぜなら猫の耳や犬の耳が頭に生えていたり、普通の人のような姿だが、耳が長く尖っている人達が映っているのだ。


「はははっ、これは妄想の産物か?はぁ……こんな世界があるなら行ってみたいっての。」


 そうふと何気なく呟いたその時だった。


《チュートリアル①をクリアしました》


 突然無機質な声がこの暗闇の世界に響いた。


「は?チュートリアルって、いったい何が……っ眩しっ。」


 突然目の前のヒビがパリン……と音をたてて割れ、溢れんばかりの光が俺を包み込んだ。



 ◇



「おぉっ!?」


 次の瞬間、俺は風で青々とした草がなびく草原に投げ出されていた。


「さっきとは違うところに来たのか?ってかいよいよこれは夢なのか怪しくなってきたな。」


 そう呟きながら辺りをキョロキョロと見渡していると再び頭上から声が響いた。


《解……ここは夢ではありません。です。》


「チュートリアル?ってかここはどこなんだ?俺はどうなってるんだ?」


 自分以外誰もいない空間にそう問いかけると、すぐにその答えが返ってきた。


《解……貴方の現実の肉体から魂が離れました。そしてここは魂の転生を司る場所です。》


「肉体から魂が離れた……ってもしかして俺死んだのか?」


《解……そういう認識で間違いありません。》


 ……マジか。


 いや、まさかな~とは思っていたが本当に死んでしまっていたのか。いやいや待て待て、この声の主の言葉を鵜呑みにしていいのか?まだ信じれるやつと決まったわけじゃないし、これが夢だって可能性もまだ……。


 そう声の主を疑っていると、また声が響いた。


《ここではチュートリアル②をクリアしてもらいます。》


「さっきが①だったから今度は②っていうわけか?ちなみに質問だがこのチュートリアルっていうのは全部でいくつある?」


 冷静に分析しながら問いかけると、その答えはまたすぐに返ってきた。


《解……総計5つから形成されています。》


「全部で5つ、このチュートリアルを含めればあと4つか。」


 夢から覚めようにも、自分じゃどうしようもないしな。今は仕方ないからこの声に従ってみようか。


「わかった。で、このチュートリアルの達成条件はなんなんだ?」


 早くチュートリアルを終わらせるために俺は無機質な声の主に問いかけた。

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