不思議なヒビ


 意識が途切れてからどれぐらいの時間が過ぎただろうか。時間の感覚も分からない。


「んん、寝てた……のか?」


 目が覚めると俺は光一つない暗い空間に横になっていた。


「夢なのか?腕の火傷もないみたいだし……心なしか少し体が軽いし。」


 意識が途切れる前とは違い腕の痛みが嘘のように消え体が軽い。そしてゆっくりと体を起こした俺は辺りを見渡した。


「夢にしては、なんも無いな。」


 周りには、ただただ暗闇が広がっている。夢ならば何かあっても良さそうなものだがな。それともこれは夢ではないのだろうか?こんなに意識もハッキリとしている夢なんて初めてだからわからない。


「まぁ、とりあえず歩き回ってみるか。」


 とりあえず最初はひたすらに真っ直ぐ進むことにした。変に途中で曲がったりするよりもそっちの方が戻る道もハッキリしてるからな。


 そうしてしばらく歩いていくと暗闇の中に微かな光を見つけることができた。


「光だ……。」


 今までずっと暗闇を歩いていたためか、僅かな光でも急に安心感が出てきた。導かれるように自然とその光の射す方へ足を進め、光源へとたどり着くとそこでは異様な光景が俺を待っていた。


「なんだこれは。」


 目の前の空間には不自然に大きなヒビが入っていて、そこから光が溢れ出していたのだ。


「これはいったい?」


 そっと手で触れてみるが何かが起こる気配はない。何かを意味しているのは間違いないのだろうが……それが何かはさっぱりだ。


「壊れそうな感じはしないな。」


 強く押し込んでみたり、軽く叩いてみたが全く壊れそうな感じはしない。


「さてさて、どうしたものか。」


 ヒビの前でどっかりと座り頭を悩ませる。


 まさか夢の中で頭を悩ませる日が来るとは思ってもなかった。というかこれだけハッキリとした意識があるのなら、最早夢かどうかすらも疑ってしまうな。

 もしかしたらここが死後の世界だったりして?あんなに出血してたし意識を失った後、死んでしまっていても……。


「……まさかな。きっと誰か気が付いて救急車呼んでくれただろ。」


 そう信じたい。だが、もし本体の俺が生死の狭間をさ迷っているとしたら、このヒビを何とかすれば生き延びることができるんじゃないか?


 これは俺に残された最後の命綱……的な何かなのかもしれない。突拍子もない考えだが、なぜか今はそれがとてもしっくり来た。


「となれば、なんとしてもこいつをどうにかしなくちゃいけなくなったな。とはいっても今のところ解決策は全く思い付かないし、少し辺りを歩いてみるとするか。」


 歩いている間に何か考えが浮かべば良いが。そう思いながら俺は一度ヒビの場所を離れ、辺りを歩き回るのだった。

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