月夜姫の封印が解かれるとき その2

「かしこまりました」

 翁じいは作業台に行くと二冊の書物を持ってきた。

「これでございます」

 黄ばんだ古文書みたいな感じがした。

 私はその本を手に持った。

 両手で一冊づつ。

 表紙には縦書きのハングル文字のような、エジプトの象形文字の様な見たこともない文字が並んでいた。


「なにこれ、見たこともない文字」

 全く読めない。

 何が書いてあるのかさっぱりわからない。

「これ、読むの? 」

「………」

 翁じいは沈黙してじっと私を見ている。

 えーっと。

 読めって言われても、どうやって読むんだろう。

 意味不明だ。


 その時だった、脳裏で何かが光った。


 ——えっ!


 読める、私はこの文字が読める。

 えーっと、声に出してみた。

 こっちが

「肉体改造における基本理論の書」

 そしてこっちが、

「魂に関する基礎研究の書」

「ああ、お読みになられた、お母様とおばあさまとご一緒です」


 そうなんだ。


 と、何かが脳裏に入ってくる。

 言葉だ、誰かの言葉だ。

 再び眼を瞑った。


「ああ、足を伸ばした。今度は手よ、クスクス、あー痛い痛い、元気がいいですね」


 誰の声? どこかで聞いた事がある。

 そうだ! ルナの声だ。


「月夜ちゃん、良く私のところに来てくれました。これから少しづつ、ママが色んなことを教えるね」


 違う、違う、違う、違う。


 これはママのお腹の中にいる時の記憶だ。ルナの声じゃない、ルナがママの声に近づけてくれていたんだ。

「たぶんママはあなたを産んでしばらくすると、天に召されます。ごめんね、29歳で妊娠したものだから、成長するあなたを見てあげれなくて、ごめんね」

 謝らないでママ、私ならたくさんの人に囲まれて、幸せだよ!


「これから大変な事がいっぱいあると思うけど、魂はいつも傍にいます。それを忘れないでね」


 うん、ママ、ママ、ママー!!!


 と、暗闇の中から何かが流れてくる。


 最初は山の奥にある、細々とした源流のような感じだったが、それが集まって岩を乗り越える渓流のようになり、ゆっくり流れる清流となり、やがて力強く大きな大河の流れに変わった。

 なにこれ!

 知識だママが教えてくれた知識の封印が解かれて、私の脳に浸透し始めたんだ。


 なにこれ、わああああ、どうすればいいの、すごい、ああああああ!


「きゃあああ! 」

 思わず悲鳴を上げた。


 そして、椅子にもたれて意識を失った。


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