月夜姫自宅に帰る その2

 そうこうしているうちに滑走路が近づいてきた、滑走路の横に生えている草花が後ろへ飛ぶように去っていく。

 くる、くる、くるー、どーんて衝撃が来るに違いない。

 もう、滑走路すれすれを飛んでいる。

 お、お、お、くる、くる、くるーーーーーー。

 と、思ったら、速度を落として空中で浮いたまま止まった。微塵も衝撃がなかった。そしてゆっくり垂直に降りて、真っ白な高級車は何事もなかったように、普通の車のように、滑走路の真ん中で、止まった。


 着陸なんて感じじゃなく、停車した。


「ひえええええ、凄っ」

「これが、姫のお国の技術力、知性の集結です」


「………」


「おつかれさまでした月夜姫、安全のためにシールドをもとに戻しましたが、敷地には自然光が入るように調整しておりますので、ご安心ください」

 ルナの優しい合成音が聞こえてきた。


「それは安心です」


 私はつい、応えた。


 車を降りて、大きな白木造りの玄関に連れていかれると、そこは、私の背丈の二倍くらいある引き戸だった。

 横についている黒く大きな表札には、白文字で『徳竹とくたけ』と彫られていた。

「徳竹さん………」

「そうでございます」

「私の苗字鈴木だよ、やっぱり人違いです」

「いえいえ、世を忍ぶ仮の名前でございます」

「徳竹さんが………? 」

「いえいえ、鈴木さんです」

「私、鈴木よ」

「それは、便宜上苗字は知られないほうが………」

 私はムッとした。


「生まれてからずーっと、鈴木だって言ってるでしょう! 」


「いえいえ、本名は徳竹とくたけ 月夜つきよでございます」


 げーーーまた発狂しそうだ。


「私の頭の中、もう、爆発しそうなんですが? 」

「いいですか、月夜姫」

「はいーーー」

 私は間の抜けた返事をした。

「ハイルナ、センサー出して」

 翁じいは蝶ネクタイに向かってそういうと、玄関の上から声がした。

「おきなじい了解しました」

 と、玄関の横に地下から太い石柱が伸びてきた。ちょうど1メートルくらいの高さで、上が斜めに切られている。私の手のひらより一周り大きいくらいの太さだった。

 すると翁じいは、私を見て微笑んだ。

「さあ、ここに手をあててごらんなさい」

「ここって、一番上の斜めのところ? 」

「はい、全てはそこから始まります」

 うーん、どうするべきか?

「ささ、危険はありません。どうか手のひらを当てて下さいませ」

 ここまできたらやってみるしかない。

 私はゆっくり石柱に近付くと、右手を開いて手をあててみた。


 と、ピカー! 石柱が白い光を放った。


「きゃあああああ、なにこれ! 」


 ウィーン………


 軽いモーター音がしたかと思うと、玄関の扉が左右に開いた。


 ひゃああ、何これ。


 そして、一瞬で、屋敷中の電気が点いた。


 ひゃああ、なにこ………


 石柱の光は消えている。

 唖然としている私の傍に来た、おきなじいが優しく言った。

「さあ、手のひらを離してみてごらんなさい」

「えっ? 」

「さあ」

「離していいの? 」

「はい、徳竹 月夜さん」

 私は石柱から手を離すと、手のひらを見て驚いた。

「なにこれーーーーーー! 」


 私の手のひらには銀色の三日月模様が浮かび上がっていた。


「今までこんな痣無かったけど」


「それこそが、女王様となる者にだけ浮かびあがるお印です」


「お、お印って、女王様って………」

「そうです」

「今度は女王様ですかぁ、なんじゃこりゃ」

「月夜姫は今はお姫様ですが、女王様になる血筋なのです」

「………」

「ささ、中にお入りなさいませ、少しずつ思い出しましょう」

「お、思い出すってなんですかぁ! 」

「受け継がれている知識を思い出すのです」

「私、何も知らないです」

「いえいえ、思い出すのです、算数や国語を思い出したように」


「………」


 やっぱり発狂しそう………



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