月夜姫自宅に帰る その3
私は、玄関の中に一歩足を踏み入れた。
そして、土間の上で立ち竦んだ。
背中越しにドアが音も無く閉まるのが感じられた。
そこは、上から太陽光に似せた光が注ぎ、なんとも落ち着く空間になっていた。外から見るよりずっと天井が高く、和風というよりは和洋折衷といった感じだ。
梁や柱は黒塗りの大きな木材らしき物で出来ているが、作りは何処かのお城みたいでもある。上がり框の上には龍の絵が描かれた衝立、その後ろは応接間のようになっているらしく、ソファーやテーブルが置かれているみたいた。シャンデリアが煌々と光っているのも見える。
と、誰かが私を見ている気配がして、土間の右手を見た。
そこには金色の上品なティアラを頭に載せて、白いドレスを纏った女性と、燕尾服を着ている白い手袋をした男性が立って私を見ていた。
「す、すみません、勝手に入って」
私は思わず謝まった。
「ははは、大丈夫ですよ月夜姫、よくご覧なさい」
後ろから着いてきた翁じいが言った。
ん、ん、ん、本物の人間じゃないぞ、額縁の中に映し出された立体映像みたいだ。
「等身大の
「そうなんだ」
長い黒髪をアップにしているけど、私と同じくらいで、肩より少し長いくらいかな、それよりため息つくくらい綺麗だ。清楚なドレスが良く似合っている。隣の男性もどこかの芸能人くらい整った顔立ちだ。
「はー綺麗」
思わず声が出た。
「月夜姫、どなたかに似ていませんか? 」
「誰だろう? 芸能人ですか………」
「いえ違います。良くお顔をご覧になって下され、ささ近づいて」
私はホノグラムに近づくと、少し顔を上げながらじっと見た。
そして、声を失った。
——私に似ている。
「そうでございます。月夜姫にそっくりです。なぜならお母様とお父様ですから」
「お母さんとお父さん! 私の? 」
「左様でございます」
どうしていいかわからない。
「でも私こんなに綺麗じゃない、ドレスなんて持っていないし、コテコテのセーラー服だし」
「お召し替えのお着物は沢山ありますので、後ほどお着替えになるとよろしい」
「私のサイズが分かるの? 」
「はい、私は存じ上げませんが、パスワードなど問答無用でネットに入り込み、あらゆるセンサーを使ってルナが把握しております」
「ルナ本当なの? 」
というと月のペンダントが光った。
「もちろんですよ。でもプライベートの会話の盗聴やどこかのストーカーのような事は致しておりませんのでご心配無く」
「はぁ」
「詳しいお話は後にしましょう、靴を脱いでスリッパをお履きください」
えっえっスリッパどこにあるの?
と、スリッパを思い描いたとたんに足元に白いフカフカスリッパが現れた。
「ひーーー出たー! さっきまで無かったのに、手品ですかぁ! 」
「月夜姫のお力です」
「私の? 」
「そう、姫が自力でお出しになったのです」
「信じられないです」
鉄ちゃん、これが私の超能力なの、鉄ちゃんに会いたいよう、一緒に来て貰えばよかった。えーん。
「さて応接間に座ってお紅茶でもいかがですか、少し落ち着きましょう」
「そうしたいです」
応接間のソファーに、翁じいと対面して座ると、人型配膳ロボットらしき機械が、トレーに紅茶を乗せて持って来た。
「ミルクティーに砂糖はスプーン一杯でよろしいですか、いつも通り」
人型配膳ロボットからルナの優しい合成音声が発せられた。
「えーっ! そこまで知っているんだ。凄い」
「翁じいはいつもと同じ砂糖なしのアールグレイにしておきました」
「おうおう、ありがとう」
配膳ロボットはテーブルにカップを置いた。
「これ全部ルナが操っているの? 」
「一体一体は独立型ロボットですが、全てセンサーがつけられて、私の指令に沿って動いております、暖かいうちにお紅茶召し上がれ、月夜姫」
だんだん姫と呼ばれるのに慣れてきた。
「うん、いただきます」
配膳ロボットがテーブルに置いた、高級そうなカップを持って一口飲んだ。
美味しい、こんな美味しい紅茶今まで飲んだ事ない、鉄ちゃんにも飲ませてあげたい。
と、配膳ロボットは会釈をしていなくなった。
だだっ広い応接間に再び、翁じいと二人だけになった。
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