発明家ジェフのお話

雨宮r

『空腹』という名の調味料

「できたぞ……。とうとうできた。」

「一応聞いてあげますよ。何ができたんですか?」


 ここはジェフの研究所。発明家のジェフと助手のヤンの二人が会話をしていた。


「最高の調味料ができたんだ。」

「はぁ。」

「なんだい?ヤン君。その気のない返事は。」

「いえね。博士が作った『最高』がろくなものだった試しがなかったなと思いまして。」

「なんてことを言うんだね」

「…『最高』の水筒。」

「ああ、そんなものも作ったな。いつでも温度調節ができるし、水であれば空気中の水蒸気を使って用意することができる、画期的なアイデアだったと自負しているのだが。」

「あれ、重すぎて持ち運びができませんでしたよね?覚えてます??仰々しい機械が無数についていて総重量が100㎏になってしまっていましたから。それを丸一日持ち歩かされて「遠足だ」とか言って山登りをさせられたボクの身になってください。」

「……そうだったな。」

「他にも…」

「ああ、もうわかったわかった。確かに私の『最高』に君はいい思い出がないようだ。最高は取り消そう。ただし非常に料理がおいしくなることは間違いない。」


 そう言って10gにも満たない小瓶に入った液体を取り出す。液体は真っ黒でお世辞にもおいしそうだとは言えない。


「……おいしそうには見えないのですが。」

「君は正直すぎないか?」

「博士のおかげです。」

「どういうことだね!!?」

「博士のおかげで正直な自分を手にすることができました!!」

「全くわからん……」

「これをかければおいしくなるんですか?ボク野菜は苦手なんですけどね。」


 そう言って小瓶を博士の手から取り、用意されていたサラダにかけようとする。


「待ちたまえ。それはサラダにかけるものではない。」

「はい?調味料ですよね?あ、焼く時の下味に使うとか?」

「違うな。そもそもヤン君は私が言った最高の調味料に関して何だと思った?」

「え?あー、塩、ですかね?人類が古くから使用している調味料ですから。」

「なるほどな。確かに塩は酢と並んで最古の調味料とされているな。だが塩は基本個体だ。塩水なら液体だがな。」

「そうなんですよ。その瓶を持ってきてからは醤油じゃないかなと考えました。」

「色から連想したのか。だが違う。この調味料の名前は『空腹』だ。」

「『空腹』??」

「そうだ。空腹こそが最高の調味料だというだろう?」

「ソクラテスですか?まあよく言いますけど。それで、『空腹』を作ったってどういうことですか??」

「なに、こういうことだよ。」


 そう宣言すると小瓶のふたを開けヤンに無理やり飲ませ出した。


「☆□●▼AB!!?」

「そうこの調味料『空腹』はとてつもなく不味い。しかもただの不味さじゃあない。胃の中の内容物をすべて吐き出したくなる不味さだ。」


 そう説明するジェフ博士の横を走り去っていくヤン。トイレへと向かったようだ。


「胃の内容物を吐き出しきったら今度は途端におなかが空いてくる。食欲増進の効果のある漢方もともに入れてあるからな。これで何を食べてもおいしく感じる調味料『空腹』の完成だよ。」


しばらくして帰ってきたヤンはおもむろにサラダを食べだす。


「ムシャムシャ、、、モグモグ、、、ムシャモグ、、、~ふぅ。……美味しくない。」

「あれ??おかしいな。」


そう言いながら『空腹』の入った瓶を取り出す。



瞬間




ヤンが博士の口に『空腹』を持っていき飲ませた。




「うげえっげっげげhくぁwせdrftgyふじこlp;!!!????」


 先ほどの三倍。30gが入っていた瓶だ。効果も絶大なものになるだろう。


「さぁて、博士の苦手な生魚、たくさん用意しておきました。おいしく食べてくださいね???」


 どこからか出てきた生魚とともに黒い笑みを浮かべるヤン。すべてを吐き出して戻ってきたとき、博士は地獄を見るだろう。



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発明家ジェフのお話 雨宮r @amemiyar

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