海の森 5

   〇海の森 コーストガード・アカデミー:昼

 

 1週間後という字幕のあと、ステージが明るくなる。

 ステージの2段目には、ミサキとほかの子供たちが集まっていた。

 

「あの時、そんなことがあったなんてね」

 

 ミサキの隣に居た女の子が話し出す。

 ツインテールが特徴的な女の子の名前は、神坂かみさか アコヤ。


「仕方ないよ。 アコヤちゃんたちはすぐ避難しろって命令されてたんだし」

「それはそうだけど⋯⋯」


 アコヤちゃんは明るくて活発な女の子で、ミサキと同じクラスで訓練を受けている。

 

「ミナトセンパイは、いまどうしてるんだ?」

 

 つづいて、ミサキたちより少し背の高い男の子がミサキに聞いた。

 男の子の名前は、九十九つくも コウタ。

 ミサキと同じクラスの男の子で、アコヤちゃんやミサキとはいっしょに行動することも多い。

 

「お姉ちゃんは――」

 

 ミサキが階段を降りはじめると同時に、ステージの照明が暗くなって、ミサキを照らすスポットライトだけになる。

 ミサキが1段目に降りてから、2段目の中央にはももえ教官が立った。

 

「ももえ教官。 お姉ちゃんは大丈夫なんですか!?」

「命に別状は無いわ。 ケガもひどくはないし、2週間ほど入院すれば、また復帰できる」

 

 ももえ教官からミナトの様子を聞かされ、安心した表情になるミサキ。

 

「ミナトさんはヘヴリングの自爆を至近距離で受けたけど、あなたのおかげで助かったのよ?」

「ボクの⋯⋯おかげ?」

 

 ももえ教官の言葉に、ミサキは首をかしげる。

 

「あなた、とっさに自分のベゼルを投げたでしょ? その時にベゼルのオートガードが発動して、バリアがミナトさんを守ったのよ」

「ヘヴリングを止めようとして思わず投げただけなのに⋯⋯」

「でも、あなたがいなかったらミナトさんは⋯⋯」

 

 ももえ教官を照らしていたスポットライトが消えて、2段目の下手に集まるアコヤちゃんたちを照らす。

 

「ミナトさんが戦線離脱しちゃったけど、サードレギオンはどうなるの?」

「ミナト様が抜けたら、メンバーは4人になっちゃうよね?」

 

 アコヤちゃんにつづいたのは、メガネをかけた女の子だ。

 メガネの女の子の名前は、千両せんりょうマドノ。

 ミサキと同じクラスの女の子で、コーストガードのことにくわしい。

 

「少ない人数で戦っていたチームだから、ミナトセンパイが抜けた穴は大きいね」

 

 ミサキたちが2段目の中心に移動しながら話している間に、1階にももえ教官やサードレギオンのメンバーが集まっていた。

 

「サードレギオンは4人になってしまったけど、これからどうするの?」

「これまで通り戦うだけだ。 代わりのメンバーは我々で見つけるしかない」

 

 ももえ教官とリーダーが話していると、2段目の上手と下手に、ドラゴンのヘルメットをしたふたりの男が現れた。


「ミナトの代わりとしてサードレギオンに参加させるメンバーは、リーダーに選ばせるつもりだ」

「そんなことをしていいんですか?」


 上手に立つ男のヒトは、バーソルフ。

 下手に立つ男のヒトは、バーソルフの弟のカルフーン。


「高い能力を持った人をチームに加えるだけでは、サードレギオンは成長しないからな」

「なるほど」


 バーソルフとカルフーンは、それぞれ海の森コーストガードの司令と副司令をつとめている。

 

「サードレギオンは、まだ正体を明かすことができない。 そなたたちも理解しているだろう」

「それでも、他のチームに協力を要請するべきよ」

 

 話しながら、リーダーとももえ教官はサードレギオンが集まる上手側へ歩いていく。


「お姉ちゃんでも話せないことがあった、サードレギオン。 なんであんなに秘密主義なんだろうね」

「あたしたちにだって協力できることはあるはずなのに」

「でも、ひとつだけ確かなことはある」


 ミサキたちは段差を降りて1段目に移動して、ステージのセンターでミサキとリーダーが隣同士で並ぶ。

 

「コーストガードは、ラーンと戦う存在である」

「コーストガードは、街と人を守る最後の砦」


 きっかけも無く、だけど決められた通りに話し出すリーダーとミサキ。


「立ち止まることは許されない」

「ボクたちが止まったら、だれがラーンと戦うの?」


 舞台上では、このふたりは同じ場所に居ない。

 でも、交互にセリフの続きを言っていた。


「だから、なにがあっても――」

「だから、どんなことがあっても――」

 

 ステージ全体の決められたポジションに、キャストたちが立つ。

 ここでやっと、舞台のプロローグが終わって――

 

「――私たちは、絶対に退かない!」

「――ボクたちは、絶対に負けない!」

 

 ――ふたりのセリフを合図に、オープニングが始まったんだ。

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