新たな事件 4
「さてと、それじゃあ調査に入る前にメイリルさんにまだ見つかっていない『
メイリルが住んでいた世界が喰らうモノに襲われた際に神に造られたという強大な力を持つ十個の武器が奪われた。そしてその武器、『神装武具』は喰らうモノの体内で消化されることなく、メイリルの世界から地球に運ばれてきた。
「メイリルさんが来る前に既にギルドの方で五つを回収済み。そして先の事件で二つを回収。そして今回の事件では残り三つのどれか、あるいは全部が関わっている可能性がある。今までに倒した『神装武具』を喰らった個体は武器の特性を強く受けた能力を持っていたのが判明している。だからこそ事前に残った武器の能力を知っておけば有利に戦えるってわけだ。というわけで説明よろしく」
そう言って今まで立っていた大志が座り、代わりにメイリルが立ち上がる。
「え~、じゃあ私から説明をするね。まずは
「次は
「最後が
「最後に注意点を一つ。今言った三つの神装武具の能力は他にもあるかもしれないのは留意しておいてほしい。『神装武具』は私の世界の国や勢力における切り札なんだ。だから私にあえて伝えていない能力があることは十分に考えられるってことは留意しておいてほしい」
そう締めくくってメイリルは席に座った。
「ありがとう、メイリルさん。全員今の情報を頭に叩き込んで任務に望んで欲しい。今回の任務の目的はあくまで調査だ。もし喰らうモノを発見しても迂闊に攻撃を仕掛けるのは控えるように。それじゃ今日は解散しようか」
会議が終わったあと、誠とメイリルは連れ立って食堂にやってきた。お互いに色々忙しく会うのは久しぶりだったので久しぶりに一緒に食事をしようということになったからだ。
「あら、いらっしゃい」
二人を迎えてくれたのは二人にとって先輩にあたる
「何か食べるの?」
食堂は異世界エデンの料理人『マスターシェフ』と給仕係の沙織の二人で回している。食堂のシステムはエデンの進んだ技術でほぼほぼ自動化されているので、たった二人でも特に問題なく営業出来ている。
バイト前に菓子パンを食べただけでギルドに来た誠はいつも頼んでいるハンバーグ定食を選んだ。
先に書いた通り食堂は全自動化が進んでいるのだが、料理だけはマスターシェフが自分で作っている。元々エデンでも料理人をしていた彼は地球の料理に興味津々で日々料理の研究を熱心にしているのである。そのためメニューの品目は常に追加されていくのだが、一つ問題があった。
それは味である。
そもそもエデン人と地球人は姿も体の構造も全く違う。当然味覚も全く違う。よってメニューに「new!」と付いている料理を頼むのはかなりの勇気がいる。以前に誠がピザを頼んだ時は見た目は普通なのに塩辛く、ジュースを余計に購入する羽目になってしまった苦い経験がある。
懐に余裕があり、かつチャレンジ精神があるのなら試作品故に値段が割安になっている新メニューに挑んでもいいのだが、今日は無難に美味しい物を食べたい気分なので安全なハンバーグを選んだのだ。
「私はオレンジジュースだけで」
「分かったわ」
沙織は手に持っていたタブレットに注文を入力すると二人を空いていたテーブル席に案内してカウンターへ向かった。
「なんかこうして話すのも久しぶりな気がするね」
「そうだね。メイリルはエデンはどうだった? 俺はまだ行った事が無いんだ」
勇者ギルド本部から異世界エデンへ行く転送装置があり誠が訓練を受けてる間、メイリルはエデンへと赴いていた。
「喰らうモノの恐ろしさを改めて思い知らされた。あらゆる物が喰い壊されて、荒野と変異した不気味な自然が広がる世界だったよ。もし喰らうモノが退かなかったら私の世界もあんなふうになっていたのかと思うと……。でもエデンの都はそれほど悲壮感は無かったな。
そう言ってメイリルは左腕に着けたブレスレットを誠に見せた。
「それは何だい? なんていうか、すごい武骨な感じだけど」
メイリルの手首につけられた、装飾品というより防具という表現がしっくりくるブレスレットを見て誠は聞いた。
「これは輝石の力、輝力を蓄えられるブレスレットなんだって。これに誠や他の勇者に輝力を分けてもらえるんだよ。それで喰らうモノに対しては魔力の代わりに輝力を使って術を発動させるんだ」
「えっ、そんな事が出来るの? 俺は魔術に詳しくないけど魔力を使わない魔術ってあり得るの?」
「輝力って使う人によって力の発現の仕方が全然違うでしょ。それはつまりすごい柔軟性のある力ってことなんだ。だから魔力の代用にも使える……のだけど、やっぱり完全に代用するのは難しいんだ。特に力加減が問題で下手すれば暴発の危険性もあるから」
「えっ、そんな危険なの、これ?」
「何せ試作品だからね。あっ、でもこれは安全装置付きだから安心していいよ。で、その試作品を私用に調整する作業が思ったより長引いたから、なかなかこっちに帰ってこれなかったんだよ」
その話を聞いて、そこまでしてメイリルが戦う意味はあるのかと誠は思う。表情から誠の考えていることを察したのだろう、メイリルは不満そうに鼻を鳴らす。
「私はただ守ってもらうだけのお姫様になるつもりはないよ。それにこのブレスレットが完成すれば輝石を使えない人も戦えるようになる。そんなやりがいのある仕事を見逃すわけないじゃない。何より相棒である君が戦っているのに私だけのんびりしているわけにはいかないでしょ?」
そう言われては反論できない。いや、そもそも自分がメイリルの行動にあれこれ口出しする権利など最初からないのだと気付いた誠は「ごめん」と頭を下げた。
「別に怒ってはいないって。マコトは私を心配してくれたんでしょ? ただ私は心配されるより信頼されたいってことだけは憶えておいて欲しいな」
メイリルの言葉に誠は神妙な顔つきで頷いた。そこに台車を押す沙織が現れた。
「は~い、ご注文の品で~す。何か空気重いけど、どうしたの?」
「ちょっと明日からの任務について話してただけだよ。ねっ、マコト!」
「ふ~ん。ま、いいけど」
それから二人は離れていた間のことを互いに話した。だが誠は最近バイトを始めた理由だけは伝えず、メイリルは本部にある部屋に、誠は自分の家に帰るのだった。
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