新たな事件 3

 「最初の書き込みは千夜一夜物語アルフライラにではなく個人のブログに書かれていた目撃談だよ。この時はまだ怪談話って感じでもなく本当に少し変な場面を目撃したってだけの書き込みだったんだ」


―――

 そのブログの主はブラック企業のサラリーマンで、終電に乗って自宅近くの駅から徒歩で自分の住む安アパートに帰ろうとしていたという書き出しから始まっていた。


 彼の住んでいる地区は少しやんちゃな若者が多いらしい。その為、飲み屋近くで酔っ払って気が大きくなった若者が揉め事を起こすのもよくある光景だそうだ。


 その日も二人の若者がいがみ合っているのを、それぞれの友達が必死に抑えて引き離そうとしている現場を目撃した。


 だが面倒事が大嫌いというブログ主は無視することを選択し、素通りをして事なきを得た。

 だが突然背後で続いていた喧嘩の喧騒が聞こえなくなったのを訝しんで振り返ると、そこには――。


―――

 「まるで喧嘩を止めるように筋骨隆々で半裸の外国人が立っていたそうだよ」


 「いや、どういう状況ですか、それ?」


 愛花が呆れた様子で大志にツッコミを入れるが、大志の方も「俺に言われても困る」と苦笑している。


 「ブログ主も愛花と同じ気持ちだっただろうな。それからまた我に返った若者グループが今度は謎の外国人に喧嘩を売り始めた。まぁ、ここまでなら少し変わった国際交流で終わったかもしれないけど、少し歩いたところでブログ主は不思議な光景をみたんだ」


―――

 警察が来るまえに立ち去ろうとしていたブログ主は再び静かになった背後が気になり振り返った。

 するとさっきまで騒いでいた酔っ払いたちの姿が消えてなくなっていた。そこに残っていたのは半裸の外国人だけだった。

 呆然とその光景を見ていたブログ主の視線に気がついた外国人らしき男が顔を向ける。その目、濁った血の色の瞳と目が合った時、考えるより先にブログ主は全速力で逃げていた。


―――

 「で、余りにも怖くて眠気が吹き飛び興奮状態のまま書いたのが、この不思議な体験談ってわけだ。人が消えた、赤い目というのは喰らうモノの特徴と一致していたから、このブログの事は俺も把握していたけど注目はしていなかった。その理由は人と見間違えるレベルで人の姿を模倣した喰らうモノの存在を今まで確認したことがなかったからだ」


 喰らうモノの中には人型といえる姿を持つ個体はいる。だがそれらの個体は人と見間違うほど似ている訳ではない。体のパーツが変、肌の色がおかしい、動きが歪、何より雰囲気が人のそれとは全く違う。例え酔っていたとしても、喧嘩をふっかけようとは思わないはずだ、というのが大志の、そして勇者ギルドの当初の判断だった。


 「それがどうして急に調査対象に?」

 

 メイリルの指摘にもっともだというふうに大志は頷き、手元のコンソールのボタンを押す。すると映し出されていた地図にいくつか丸印が付けられた。


 「俺は小心者だから、地元の怪談話をそのままにしとくのも落ち着かなくてね。だから念のためにギルドの偵察ドローンを借りて調査を始めた。すると、神奈川県の何か所かで特殊な反応があったんだ。ただ問題は、それが喰らうモノの反応じゃなく魔力の反応だったことだ」


 地球上で魔力反応が自然に発生する事はない。となると必然的にメイリルのような地球外から来た何者かが魔術を使った可能性が高い。そのため大志は更に踏み込んだ調査を行うことにした。その手始めにドローンが取得した魔力のデータを勇者ギルド内にある研究室で調べてもらうことだった。そして今朝になって解析結果が大志にもたらされた。


 「魔力と一口に言っても、その性質は個人や出身地によって大分違う……らしい。研究室の方からも説明は受けたけどイマイチ理解できたか自信がない。だからメイリルさんに説明を任せてもいいかい?」


 任されたメイリルは「分かりました!」と了承すると立ち上がり、意気揚々と魔術について説明を始めた。


 「タイクーンの言う通り魔力の特徴は個人や出身地によって大分異なるのが分かっているよ。更に詳しく調べれば、どういう魔術が使ったのかも判別できるんだ。実際に私が魔術で隠れていた時もギルドでは私の魔力を感知、解析してアユミが探していたんだって」


 「なるほど、そんな経緯で立花さんが……。あれ、じゃあもしかして今回発見された魔力って……?」


 何かを察した誠に大志がはっきりと頷き、さらにコンソールを操作する。すると今度は円グラフが新たに空中に表示された。グラフ内にはいくつもの色が配され細かい文字が並んでいる。


 「先輩~、出来れば口で説明してくれませんかぁ?」


 「分かってるって。これは魔力の性質をグラフで表したものだよ。数値とか文字は気にしなくてもいい。俺だってよく分かってないんだから。重要なのは各色の割合だ」


 呆れと眠気を含んだ声で抗議する愛花を制して大志は九つの円グラフを重ね合わせる。すると九つのデータは多少の差異はあるが、大体同じ物に誠には見えた。


 「これは今までにギルドが回収した『神装武具ジ・オーダーズ』の魔力データと神奈川県で発見されたデータをグラフ化したものだ。見ての通り、グラフはほぼ同じ、とすれば発見された反応はメイリルさんが捜している『神装武器』である可能性が極めて高い。となれば、君たち二人に来てもらうのは当然だろう? なんで愛花まで来たのかは分からないけれど」


 その言葉に愛花はツンとした顔をしてそっぽを向く。そんな愛花に苦笑しつつ大志は誠とメイリルに顔を向ける。


 「これが今日君たちに来てもらった理由だよ。俺はこの調査を正式に任務クエストにする。だから君たちに参加を要請したい。もちろん強制じゃない。考えたいのなら今日一晩だけ待つから――」


 「その必要はないよ。ねっ、マコト?」


 メイリルに誠は力強く頷き参加の意思を示す。


 「よし、なら今回の調査任務はこの四人で行うとしよう」


 その後、満場一致で大志が四人のリーダーに選ばれ会議は次の話題に移っていった。

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