新たな事件 2

 映像に表示された文章は書きこんだ人は違えど内容は大体同じものだった。


 『外国人風の人』が『周囲の人』ともども『消え失せる』。


 誠が、まだ日本語に慣れていないメイリルに内容をかいつまんで説明しようとすると。


 「ああ~、メイリルさん、ごめん。普通に意思疎通ができるから日本語が出来ると勘違いをしていたよ」


 「ううん、私は相棒に教えてもらうから『タイクーン』も気にしないで」


 謝る大志にメイリルは彼のあだ名を呼び、気にせず本題に入る様に促した。


 タイクーンというのは大志のあだ名である。

 元々のあだ名は大君たいくんだったが、勇者としての活躍から、誰が言い出したか権力者や実力者を意味する英語のタイクーンという呼び名が定着してしまった。控えめな大志は不相応だと嫌がったが、数の力には勝てず受け入れるしかなかった。


 「済まない。それじゃ誠くんにはメイリルさんのサポートを頼むよ。さて見てもらった投稿文は最近になって僕が管理している『幻視者たちの千夜一夜物語アルフライラ』で話題になっている噂話『異人さんに攫われる』シリーズ、その大元になったと思われる三つの書き込みだよ」


 大志は話ながら手元のコンソールを器用に操作して関東圏の地図を出した。そこから更に神奈川県をクローズアップする。


 「確か歌にそんなのがありませんでしたっけ? 赤い靴の女の子がどうたらって?」


 「おっ、よく知っているね。たぶん最初に『異人さんに攫われる』って題名を付けた人も赤い靴の少女の事が頭によぎったんだろうね。このタイトルが定着して噂が広まると、赤い物を身に着けていたら攫われるってバージョン違いも出てきたし。まぁ、これに関してはデマだろうけどね」


 大志が話している間に更に地図を拡大する。その場所は赤い靴の少女発祥の地である横浜から西にある相模原市だった。その相模原市を映した地図に三つの黄色い点が点滅している。


 「さっき見せた大元となった話を投稿してくれた人が住んでいるのがここだよ」


 「え? なんで投稿した人の場所が分かるんですか?」


 「ハハハ、地球より優れたエデンの技術にかかればこの程度簡単だよ。誠くんも憶えがあるだろう?」


 「そういえばギルドに入る前から俺の家の場所が特定されてましたね……」


 「もちろん発信元を割り出すなんて簡単に許可は下りないけどね。ただ今回は高い確率で喰らうモノが関わっている可能性があったから許可が下りた。それに大元の投稿者はこの怪異の目撃者である可能性が高い。つまり『幻視者』になっている可能性があることから早めに所在を見つけ出す必要もあった。幸い、事前調査の段階で投稿者は誰も幻視者ではないと結論付けられたから、そこは安心して欲しい」


 地球外の存在を見た事によって眠っていた第六感が目覚めた人を幻視者と呼ぶ。

 彼らはそれによって地球外の異質な存在を見たり感じ取れるようになる。

 だが、それは自分たちの存在を隠しておきたい喰らうモノにとっては脅威と見なされ命を狙われることにもなる。

 だから『幻視者』を保護する事はギルドの重要な仕事の一つなのである。

 

 大志は全員の顔を見回し、ここまでの話の内容が全員にキチンと伝わっているかを確かめてから、いよいよ本題を口にし始めた


 「事前調査でもう一つ分かったことがあった。投稿者の調査をしていたドローンが地球に存在しないはずのある種の力。すなわち魔力を感知したんだ。しかもそれがメイリルさんが以前から探しており、ギルド内でも保管されている神装武具ジ・オーダーズと波長が酷似しているんだ」


 地図の横にもう一つ画面が追加された。そこには二色に色分けされた波線が描かれている。その波線は大志の言うように多くの部分が重なり、性質が近しいことを示していた。

 

 「これらのデータを見て更なる調査の必要があると僕が判断した。そこで神装武具ジ・オーダーズ捜索が目的であり地球で一番詳しいメイリルさん、その協力者である誠くんにこうして集まってもらったんだ。……余計なのまでついてきたけど」


 「何か言いやがりましたか、豚饅頭先輩?」


 「いや、何も? さてここで確認だけど二人はこの任務クエストに参加してくれるかな?」


 愛花の氷点下の視線を受け流し、大志が参加するかを二人に問う。


 「もちろんです!」


 間髪入れずに答えるメイリルと黙って頷く誠に大志は「ありがとう」と感謝を伝えると、手元のキーボードを操作して更に詳しく現在の状況を説明する準備を開始する。

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