第二部 堕ちた神々

序章

ある少年の体験談より

 これは僕が体験した話です。

 初めての書き込みだから読みにくかったらごめんなさい。


 僕は塾に通っているんですが、その塾は家から遠くて自転車で三十分くらいかかるんです。


 塾が終わる時間は夜の九時で、その日は友達たちとお喋りをしていて九時半ごろにようやく家に帰り始めました。


 塾には自転車で通っているのですが、行く時と帰る時とで少し違う場所を通るんです。なぜかと言うと僕の家の近くには大きな公園があって塾へ行くときは時間短縮のために(いけない事だけど)その中を自転車に乗って突っ切ります。だけど夜は柄の悪い人たちがいる事があるので迂回しなくちゃならないのです。


 その日もいつも通り公園の入り口に大きなバイクが止まっていました。僕は(ああ、いるな)と思いながら公園沿いの薄暗い道を走っていました。


 公園と道の間には金網のフェンスしかなく中から外を見ることが出来ます。だから僕は(見つかりませんように)って思いながら自転車を飛ばしていました。

 ちょうど公園の中央あたりが見える場所まで来ると男の声がしました。別にそれ自体は珍しくはないです。ただ、その日はちょっと様子が違いました。「どこから来たんだ?」とか「何か用かよ?」とか誰かと言いあっているのです。


 (喧嘩かな?)と思った僕は止せばいいのに自転車を止めて公園を覗いてみる事にしました。

 見つからないように公園に生えている木に隠れるようにしてフェンス越しから中を覗いてみました。どうも柄の悪い人が五人くらいで誰かを囲んでいるようでした。目が暗さに慣れてくると囲まれているのが女の人、しかも外国人なのだと分かりました。

 目鼻立ちがエキゾチックな感じで明らかに日本人の顔だちじゃなくて、髪の色も薄い金色、プラチナブロンドって言うのかな? そんな感じの色合いでとても綺麗な人でした。ただ――その女の人の服装が変というか過激だったんです。

 上半身は胸を隠しているだけで、スカート(腰布?)には大きなスリットが入っていて太ももの付け根まで見えるくらいでした。


 (これは警察を呼んだ方がいいかも)と思って僕はスマホを取り出しました。あんな過激な格好をした美人を男たちが放っておくわけがないと思ったからです。

 僕がスマホを操作しようとして視線を一瞬離したとき急に公園の中が騒がしくなりました。何事かと思って顔を上げると、踊り子みたいな服を着た人が踊り始めたんです。ただその踊りはエッチな感じじゃなくて厳かで儀式的な感じというか。すみません、上手く言葉で表せなくて。


 でも間近でそれを見ていた男たちは完全に怯えてました。その中で多分リーダーみたいな人が食って掛かってたんです。「何のつもりだ」とか「ふざけるな!」とかそんな感じのことを言っていたような気がします。でも女の人はそんなことお構いなしに挑発するようにケラケラと笑いながら踊り続けていました。


 怒鳴る男たちと気にせず踊る女という異様な光景に僕も段々怖くなってきました。 警察に電話しようとスマホに視線を向けた時、突然公園にパッと眩しく光ったと思ったら、急に声がしなくなりました。僕は近所の人が止めに入ってくれたのかと思いました。

 けれどそうじゃないのはすぐに判りました。なぜなら公園の中には誰もいなくなっていたからです。囲んでいた男たちも踊っていた女の人もみんな消え失せてしまっていたんです。


 怖くなった僕は無我夢中でペダルを漕いで家へ逃げ帰りました。


 何が起こったのかは分かりません。正直に言うと、あれが本当にあった事なのかも自信がありません。

 けど、このサイトで似たような話があったから僕の体験も書いてみようと思ったんです。

 管理人さん、どうか調査をしてください、お願いします!


―――

 その書き込みを勇者ギルド本部にあるデータ調査室にあるモニターで見ていた小太りの青年がつるりとした顎を擦る。


 「同じような書き込みがこれで三件目か。遭遇場所も近いな。アダム、済まないけどチェックした三件の送信元を調べて欲しいんだ」


 「了解デス。デスガ宜シイノデスカ? 大学受験デ忙シイノデハ?」


 「勉強はちゃんとしてるよ。でも夏休み前から一回も任務クエストを受けてないんだ。あまり勘を鈍らせたくないし、何より地元の事件を放っておきたくない」


 「了解デス。少々オ待チクダサイ、大志たいしサン」


 ギルドの管理を司る二つのAIのうちの一つ、男性の声をもつアダムの声がしなくなると神保大志じんぼたいしはすぐに調査用のドローン使用を申請する。ギルドに所属している人数は多くはなく、こういった飛行ドローンはそれを補ってくれる大事な戦力だ。


 「とりあえず三機でいいな。さて鬼が出るか蛇が出るか」


 久しぶりの出動に大志は不謹慎だと思いつつも心を躍らせていた。

 

 そして三日が過ぎ彼の調査がひと段落ついた所から今回の物語は始まる。

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