光剣の勇者と神導の魔術師 10

 「メイリルさん、大丈夫!?」


 「アユミ?私は、大丈夫……。それよりマコトは?」


 「いや、全然大丈夫じゃないでしょ。誠くんは大丈夫よ。向こうで元気に戦っているから」


 「戦っている?」


 亜由美に助け起こされて視界を上げたメイリルの目に映ったのは猛然と人型と切り結ぶ誠の姿だった。


 「……あれが、マコト?」


 「あれは、もう二段階目のブーストが入っているね。ちょっと動かないでね」


 「冷たいっ!」


 ヤオヨロズから救急スプレー缶を取り出した亜由美がメイリルの全身に遠慮なく吹き付けていく。ヒヤリとした冷たさに驚くメイリルだったが気づいた時にはもう傷の痛みは無くなっていた。


 「流石に骨折とかは治せないけど打ち身、擦り傷とかならこれで治ると思うけど」


 「……大丈夫です。もう動けます」


 亜由美の手を借りて起き上がると遠くから熱風が吹き付けてくる。その中心にいる少年の姿を見て改めてメイリルは亜由美に問いかける。


 「あれは、本当にマコトなんですか?」


 「正真正銘誠くんだよ。ちょっと髪の毛の色とか違っているけどね」


 亜由美の言葉通り、誠の髪の色が黒から金色に変わり、瞳の色も水色に変化し淡く輝いている。

 その姿を見た時、アリエントが震えメイリルの記憶にない景色がフラッシュバックする。


 (これはアリエント、ううん、ナイトゥの記憶?)


 彼女の記憶に残るのは金色の髪を持ち、誰よりも熱い心を持った戦士。


 (そうだね、今のマコトにちょっと似ているかもね。けど、違う。あれはあなたの想い人じゃなくて私の相棒だよ!)


 「メイリルさんはまだ魔法、じゃなくて魔術はまだ使える?」


 声をかけられてメイリルは改めて亜由美の顔を見て驚きの声をあげる。


 「アユミさんこそ大丈夫なんですか、その顔色!」


 「まだ大丈夫!そんなことより答えは?」


 「使えますけど、でももう私の魔術なんて……」


 「そこは私がサポートするから心配しないで。一発分だけあれば十分だから」


 「……マコトは勝てますか?」


 「あはは、むしろ負ける理由がないんじゃないかな、あれは」


 二人の視線の先で、誠は自分に向かってくる蛇のような炎を正面から切り払っていた。

 人型が大きく右腕を振りかぶりその先端につく大鎌を鎖鎌のように振り回すのを姿勢を低くして避け誠が一気に距離を詰めようとするが何かに気づいて横の大きく飛ぶ。その誠を追うように炎の柱が地面から噴き出してくる。

 それを全速力で走り振り切ると人型目がけて跳躍、人型の顔に膝蹴りを叩き込む。

 上体を反らしそのまま倒れるかと思われた人型の胸に穴が開き黒炎は吐き出されるのを人型の体を蹴る反動でぎりぎり避けるが、その隙を逃さんと人型が右腕の鎌を誠目がけて発射する。


 「でぇああああああああああ!」


 気合一閃、空中で鎌を両断した誠が更に距離を詰める。

 その誠にブリッジ状態から無理やり体を起こした人型の顔、眼しかなかった顔にエネルギー弾を放つ発射口が新たに作られていた。溜め込んでいたエネルギーが黒い光となり放たれそうになる瞬間、誠の左の拳がその発射口に叩き込まれた。


 研ぎ澄まされた誠の感覚は、ただ漠然と周囲の異変を感じ取る「虫の知らせ」を、相手の敵意を、自らに害を為す攻撃を事前に知る一種の「未来予知」に変化していた。

 だが、当の本人はそんな自身の能力の変化など意識することなく直感に従い人型を追い詰める。

 誠の拳で塞がれた発射口のエネルギーが暴発し人型の頭を吹き飛ばす。

 傷ついた左手が輝石の力で回復するのも待たず片手で振るわれたヴィエルヴィントが遂に模倣ディーオルフトを捉える。

 幾重にも張られた粒子と炎のバリアを切り裂き、その中心へとあと少しと迫った所で誠の刃が動きを止める。いや、そうではなく絡めとられたといった方が正確だろう。


 「このっ!」


 焦る誠の足に凄まじい痛みが走る。誠が視線を落とすと大地から伸びた炎の茨が足に巻き付き行動を妨害していた。

 そして動けなくなった誠へ半分欠けた大鎌を人型は振り下ろす。


 だが、誠の左腕はまだ動いていた。

 体の中にある力は凄まじい力を、目の前を悪を圧倒する力を誠に与えた。


 しかし。


 その力は、まだ完全には発現していなかった。

 力を十全に発揮するための器がまだ出来ていなかった。

 だが、追い詰められた状況の中で誠は更なる力を願った。

 その願いが、強い思いが一つの形を為して左手に現れた。


 「切り裂けっ!!」


 誠にとっての力の象徴。それは異世界の少女に託された剣に他ならない。


 だからこそ、彼の為に生み出された剣は当然の如く同じ姿をとって生み出された。


 オリジナルの黄金の光と違う青い光を刀身とした左手の剣が鎌を切り裂き、そのまま人型の左肩の付け根までを切断した。

 すぐに再生させようとした人型だが切り口が壊死したように白色化し思うように再生ができない。


 「でぇあああああああああ!」


 その一瞬の隙を誠は見逃さない。

 そのまま左腕を右に降りぬき人型の胴体を腹から両断する。

 支えを失い天を仰ぐ形で倒れる人型にもはやヴィエルヴィントを抑える力は残されてはいなかった。

 誠は素早く右手のヴィエルヴィントを引き抜き、今まさに自分の目の前にある神の武器を模した核に両手の光剣を交差させるように叩きつけた。

 金と青の光が炎を裂き黒い粒子を吹き飛ばし禍々しい槍に亀裂が走る。


 「これで!終わりだ!!」


 最期に僅かに炎を先端から噴き出し、ついに核が砕かれた。

 悲鳴を上げる器官もなくなった人型の体が一瞬で崩壊し戦いは終わった、と誠が気を抜いた時、上空で爆発が起こった。

 驚く誠が振り向くとアリエントを構えているメイリルと満面の笑みを浮かべてサムズアップしている亜由美がいた。


 「最後の炎に紛れて自分の欠片を打ち出してたの。自分が死んでも力だけは他の喰らうモノに回収させるつもりだったのよ。まぁ、あいつらがよくやる手よ」

 「だからアユミの力と私の魔術を併せた一撃でドカンってね」

 「ははは、そっか」


 二人の無事な姿を見て力が抜けたのか誠はその場に座り込んでしまう。

 そんな誠を心配して二人の少女が駆け寄った。


―――

 主を失った空間は、バキンと何かが割れるような音を偽りの世界に響かせ崩れ去った。


 そして世界は何事もなかったかのように時を刻み続ける。


 遠くから聞こえてくる様々な音とゆっくりと顔を隠していく太陽、そして右手に添えられたメイリルの手の温かさを感じながら誠はようやく戦いが終わったことを実感したのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る