光剣の勇者と神導の魔術師 9
倒れている敵よりも胸を、いや、核を一撃で貫いた敵を撃つために人型が首をぐるりと180度回転させ必殺の怪光線を放つ体勢をとる、つもりだった。
しかし攻撃に移る前に人型の無機質な赤い瞳が捕らえたのは拳だった。
ドゴン!という音と衝撃を伴って元々人形めいていた人型の体が地面と水平に吹っ飛ばされる。
顔面が凹み、瞳が砕け散った人型の体がさっき自分が吹き飛ばしたメイリルよりも長い距離を飛び顔面、肩、足が地面にぶつかるたびに面白いように体がバウンドする。
武器に変じた両腕を地面に突き立て無理やりブレーキをかけるがそれでも体が後ろに流されていくのを止める事ができない。
だが、何かを感じ取った人型が左腕を地面から引き抜く。
「うおおおおおおおっ!」
上空から斬り込んできた誠の一撃を人型が模倣ディーオルフトで防ぐ。
「~~~~~~~~!!」
人型もまた雄叫びをあげ右腕の鎌で誠の頭を刈り取ろうとするが、まるでその動きを読んでいたかのように誠はスレスレで避け、がら空きになった胴体へ思いっきり前蹴りを叩き込む。
「まだまだっ!」
追い打ちにヴィエルヴィントの刃が再び人型を貫くが今回はそれだけに終わらない。
「食い破れ、ヴィエルヴィント!!」
人型に刺さった刃からさらにサボテンの棘の様に無数の細い刃が生え人型の体を内部からズタズタに切り裂く。
だが全身を串刺しにされてもなお人型は止まらない。槍から噴き出す黒炎を即座に誠へと放ち反撃に移る。痛みも苦しさも感じず暴れまわる姿は正に悪鬼ともいえる禍々しさである。体に開いた穴から血のように噴き出す黒い煙のような粒子が周囲を黒く染めていく。
「このっ!」
刀身を切り離して距離をとった誠が黒炎を薙ぎ払う。切り離された刀身は未だに人型の中にあったが周囲に飛び散った黒い粒子に触れると輝きを失い消滅してしまった。
だが、それよりも気になったのはあの攻撃で人型の残り一つの核の感触を探りだすことが出来なかったことだった。
(こいつ、体にはもう持っていない?だとすれば……)
そこに誠の考えを裏付けるように亜由美の声が遠くから響いた。
「そいつの!核は!その左腕よっ!!」
亜由美の声が聞こえたのか、それとも別の理由があったのか、人型の左腕の槍がまるで生物のように脈動をし始める。そして、肘に近い部分の装甲が開くとその中から紅い鉱石の様な物が顔を出す。
「あくまで核を晒して戦うのは習性みたいなものなのかね」
軽口を叩きながらも誠は一切の油断を排して構えをとる。
人型のガラス細工のような眼に黒い炎のような瞳のように灯り誠を見つめてくる。
その視線に込められているのはまごうことない敵意と殺意。
今までただ周囲に撒き散らされていた悪意が明確な意思の元に、ただ一点に向けられる。
少し前の普通の少年だった誠なら、その悪意だけで生命活動を終了させられていただろう。
しかし今の誠には、その悪意すら闘志を湧きたてさせる糧に過ぎない。
恐怖はなかった。その代わりに心を満たすのは激しい怒り。
その怒りの元はきっとヴィエルが置いていったものだろう。
だが、それでもいい。
例え仮初の感情であろうとも、今この時体を動かす力になるのなら……!
最早、人間の姿を真似るリソースも削いだ人型は鎧も無くなりその姿は誠を散々に追いかけ回した人形のようである。その代わりに両腕の武器は更に怪しく輝き凹んでいた仮面のような顔が復元される。
顔を誠に向け体を左右に揺らしながら人型がゆっくりと足を前に踏み出す。
それに併せて誠も右手のヴィエルヴィントを握りしめて歩き出す。
一歩、二歩、足を進めるたびに互いの速度が速まっていく。
そして、何もない荒野で再び、光と炎が激しく交錯した。
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