第五章

全てを喰らうモノ  1

 今まで聞いたことのないパソコンから放出されるサイレン音に誠はどうしていいか分からずあたふたするのみで、メイリルもただその様子を目を丸くして見守ることしか出来ない。

 だが、そんな二人の混乱に拍車をかけるような事態が起こる。


 「突然ノ連絡、ゴ容赦ヲ、咲村誠サン」


 「だ、誰だ!?」


 「アナタ、イエ、アナタガタノ味方デス。ト、言ッテモ信ジテイタダケナイデショウガ。シカシ、事態ハ急ヲ要シマス。スグニソノ場から退避シテクダサイ!」


 「退避って……」


 一体この変声機を使っている奴は何を言っているのだろうと誠は抗議を口にしようとした時だった。

 ズゥゥゥンと腹に響く振動と同時に誠の第六感が本日何度目かの最大級の警告を発する。

 メイリルも何かを感じ取ったのか部屋の隅に立てかけていたアリエントを手に取り薬が入ったバッグを腰につける。


 「一体何が……」


 「スグニ窓ヲ開ケテクダサイ!周囲カラ隔離……、イエ、コノ辺リ一帯ガ何処カニ引キズリコマレヨウトシテイマス」


 「引きずりこまれるって……」


 「ほんとだよ、マコト!見て!」


 窓を開けて外の様子を窺っていたメイリルに促されて椅子から立ち上がった誠が窓に近寄る。

 そこから見えた物は。


 「沈んでいる?」


 丘の上にあったはずの誠の家が少しずつ下へと落ちていく。いつもは同じくらいの高さがあった駅近くの高層ビルがそのままなのに誠たちだけが見上げる形になっている。


 「あの、これはアギト、いえ、喰らうモノが起こしているのですか!?」


 「ハイ、ソノ通リデス」


 「うわっ!」


 なぜか先ほどの声が窓の外から聞こえてきて二人は驚いて声がした方へ視線を上げるとそこには丸っこい物体が浮いていた。


 「マコト、これ何?」


 「いや、俺にもさっぱりだけど……。まさか、これがさっきの声の人の本体?」


 「イエ、コレハ只ノ ドローン デス。本体ハ別ニアリマス。既ニコノ空間ハ地球ノ理ノ外ニアリマス。全テノ インフラ ハ停止シテイマス。コノ ドローン モ長クハモチマセン。デスノデ セメテコレヲオ受ケ取り下サイ」


 丸いドローンの下部が開きそこから小さな手提げ袋が出てきた。

 それを誠が手に取ると同時に先ほど続いていた微振動が段々と大きくなっていく。


 そして。


 「あっ……」


 一際大きな振動が襲ってきた時、窓の近くにいた誠の体は窓の外へ放り出されてしまった。


 「マコト!」


 メイリルの差し出した右手を掴みかけるも、二人の手は離れ、そして……。


 「マコトーッ!!」


 地面も建物も、何もかも飲み込んでいく暗い穴に誠の体は消えていった。

 その後を追うように、メイリルのいた家も同じく闇に飲まれる。


 この日この時をもって持山町の一角に存在したあらゆるモノは人々の記憶から消え去った。


 ……ごく一部の者を除いて。

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