第10話 どうやら兄弟の悪巧みが始まった様です。
次に改造したのは魔導カメラである。
移動式なのは実に便利なのだけど、どうせなら光学迷彩くらいは付けたいので付帯して見た。
カメラの性能はかなり高かったのであえてイジらない。モニターを如何しようか…取り敢えずはスマホサイズのモニターを作ってそれに連動させる。問題は洞窟の内から、この屋敷までの通信手段を考えねば…と思ってたら魔導具の本には書いてある魔法陣で繋げると距離は関係なく届く様である。便利だ。
カメラの改造を終えたら本日の作業は終了。明日は魔導カメラの設置と他にいくつかの魔導具を作ろう。
「ニャア〜」
タマはリラックスしている様だ。魔導結界のお陰で鳴き声も漏れないし。
翌日も朝早くからタマと出掛ける。
洞窟の内部で魔導カメラを置いて撮影するルートを考えながらの設置で有る。
しかし、カメラだけってのもちょっと寂しいな。いざという時にオレが来れない事も考えられる。やはり警備用のオートマタを1台作るか。
早速、【魔導具の書】の記憶からオートマタの情報を引き出す。
フレーム及び装甲はミスリルを使う。沢山有るしね。城に居たオートマタはタマダと同じく城の魔導炉のエネルギーを使っていたが、今度作るのは超小型の魔導炉を組み込んで完全自立型にする。超小型魔導炉の核にはあの魔人から獲った魔石を使用する。
オートマタの形状は蜘蛛の姿にした。
体長は3mほどで洞窟の移動をしやすい様に体高は1m迄低く出来る。動きはかなり早い。攻撃は噛み付きと脚での切り裂き、麻痺毒噴射と粘着性の糸を吐き動きを封じる。そして最大の武器は属性魔法を封じ込める【禁書】に有った魔法『サイレントキラー』の魔法陣を実装している事。エリアは20m有るので洞窟の中なら魔法攻撃は出来ない。
まあ、入って来たヤツは基本的には麻痺と糸で拘束するスタイルだ。
また、蜘蛛型オートマタの動力源で動く小型の蜂型オートマタを偵察機で10匹作る。これは蜘蛛型の目として活動させる。
「さて、コイツの名前は何にするかな…」
「ニャア!ニャア!」
「ん?どうした?何か有るのか?」
タマは塞がって居る城の洞窟の入り口をガリガリ引っ掻いている。引っ掻きながらニャアニャア鳴くのだ。
「…あっ!そうか!タマダにしたいのか?」
「ニャア!」
「そうかそうか…じゃあコイツはタマダ弐号だ!」
タマは自爆したタマダとは古い仲だからな…ちょっと泣けるじゃねーかチクショー!!
こうしてミスリルの洞窟はタマダ弐号に任せる。
勘の鋭い方ならもうお分かりでしょうが、この『タマダ弐号』もかなりのぶっ壊れ機能を持ったオートマタである。コレ1体で城の完全制圧も出来る位の…それは仮想の敵をあの魔人とした為である。
オートマタの作製でもう良い時間になってしまった。
「タマ!狩りしながら帰るよ!」
「ニャ~」
今までは一人で狩りをしながら修業してたけど、これからはタマと一緒なんだなあ。洞窟にはタマダ弐号も居るし。ちょっとした贅沢感に包まれているよ。
6歳になった頃にちょっとした事件が起こる。
それはまさかのマイケル兄さんの分家騒動である。前々から父のやり方に怒りを募らせていたマイケル兄さんが、度重なる父の横暴に耐え兼ねて遂にキレたのだ。
マイケル兄さんは魔法学者を目指していた。それには父も賛成していた筈だし家庭教師まで雇っていたのだから。だか、その事情が突如として変わった。きっかけは王様からの一言である。
「そちの領土は増えてはおらんな…」
まあ、王様は当然の事を言ったまでである。ここまで20年近く領土拡張の為の開墾も何もやらなかったのだから。武功で王都に返り咲いてなどと出来もしない事に執着した結果である。そして、そのお鉢がマイケル兄さんに回ってきたのである。
事もあろうに父はマイケル兄さんにオレが狩りをしている森やその奥の樹海の開拓総責任者として働けと言ってきたのだ。オマケで狩りをしてこの森に詳しいオレにもマイケル兄さんの下働きをしろと命令してきた。
マイケル兄さんは当初、我慢をして渋々父の協力をしようと考えていた様である。しかし、マイケル兄さんとカノーにぶん投げるだけで自分は全く動かないし、ロクに面倒も見てこなかったオレに下働きをしろと命令した事に遂にキレたのだ。
マイケル兄さんは開拓総責任者では無く、分家になり一切関わらないと啖呵を切ったのだ。当然、屋敷は大騒ぎとなり、エリオット兄さんが事の収拾に乗り出す羽目になった。
エリオット兄さんはマイケル兄さんとカノーとオレを呼んで話し合いを持つ事にした。
「マイケル…気持ちは分かるが分家したら経済的にキツくなる。オレはもちろんお前に協力するがソレだけでは持たないぞ」
「兄さん、もう決めた事だから。あの父には愛想が尽きたよ」
「マイケル様…何卒我慢なさって下さい…何年かの辛抱で良いのです。どうか!…」
「カノー…何時もすまないと思っているよ。でも今度だけは許さない」
「あの…兄さん達とカノーに提案が有るのだけど…」
「ん?どうした?アレス。何かあるのか?」
「うん、マイケル兄さんにあの森と樹海の開拓をして欲しいんだ。それには条件として分家としての自治を認める事。その代わりにその件を王国側に隠す事を父に認めさせて下さい」
「それでは父の思惑通りではないか!!」
「いいえ、数年後には分家独立してしまえば良いので大丈夫です。その時ではもう父が何をしようとも既に遅いですから」
「何を言ってるのだ?もう少し詳しく話して欲しいが」
「あの樹海にはミスリルの鉱石が沢山有るのです。ですから其れを開発資金として開拓して、暫くはミスリルの件を隠すのです」
「ミスリルだと??本当なのか!!」
オレはマジックバックからミスリルの延べ棒を出した。3人共絶句している。
「こんなのが沢山ありますから資金には困りません。但し、この事を父に知られるとマズいので知られる前に分家独立の確約を貰う事が重要です。どうせ、開拓には全く興味無しだし王国へのメンツが立てばスンナリと分家独立の確約は貰えるはず」
「なるほど…それなら開拓も出来るし、あの父に一泡吹かせられるね…しかし、ミスリル鉱脈とは…アレスは何時それを見つけたんだい?」
流石にマイケル兄さんは計算が早い。
「もう、1年経つくらいですかね…父に盗られるのは嫌だったので、エリオット兄さんが継いでから皆で分けるつもりだったの」
「そんな事考えてたのか…お前には苦労ばかりさせたのに」
エリオット兄さんはいつも優しい。
「廃嫡の件以来、絶対に皆に恩返ししようと思ってたからね。だからこのミスリルは切り札として取っておいたの。マイケル兄さんはカノーと連携を取ってミスリルを上手く使った資金繰りを。エリオット兄さんはカノーと父を上手くなだめて、数年後にひっくり返した時に王国から分家独立の許可と支持を取付けて下さい。カノーには苦労掛けるけど、父にはマイケル兄さんの偵察とか言ってくれれば好きに動ける筈だよ。鉱脈の発掘は俺に任せて。後でまた話すけど発掘用の切り札も有るから」
「アレス様…分かりました。このカノーは皆様の力になりまするぞ!」
「しかし、アレスがココまで考えてたとは…前から思ってたけど6歳に見えないね」
皆もエリオット兄さんの言葉にウンウンと相槌を打ってた。そりゃあ転生前の記憶も有るからね。身体は子供!頭脳はおっさん!ですから!
早速、エリオット兄さんはカノーと、マイケル兄さんの分家と開拓エリア独立を認めさせる事を条件として、数年間は王国にその件を隠す事で面子を立てると言う案を認めさせた。父には同情しない。
一方、オレはマイケル兄さんに樹海の洞窟の案内をしていた。もう隠すつもりは無いのでタマも紹介していた。兄さんは突然姿を表せたタマにビックリしていたが、その内に可愛いとか撫でさせてとか言って来た。マイケル兄さんも可愛い。
洞窟の内部にマイケル兄さんを下ろして、洞窟の警備をしているタマダ弐号を紹介すると、タマダ弐号を見たマイケル兄さんがぶっ倒れた。チョット刺激が強過ぎたかな…気づいた兄さんにオートマタの説明をしてからミスリルの洞窟に案内した。ミスリルの鉱脈の大きさに驚いていた様だが、推定の埋蔵量などを計算しだしていたのは流石マイケル兄さんだ。
「コレを掘るには結構な人員が必要だなあ…運び出すのも一苦労だ」
「あー、それなら採掘と倉庫までの運搬はオートマタを作るから平気だよ。人を入れて情報が漏れたら大変だからね」
「さっきの…タマダ…だったっけ?アレもまさかアレスが作ったの??」
マイケル兄さんには古代文明の城の話、そこで得られた知識やタマダの事、魔人が襲来した事で城は失われてしまった事などを話した。その際にマイケル兄さんに渡そうと思っていた【古代魔法の書】の製本を見せた。
「アレス!これは凄いよ!歴史が変わるよ!!」
「ココが起動に乗ったら、管理を誰かに任せて、マイケル兄さんは魔法の研究をすれば良いのさ。予算もたっぷり有るからね」
「アレス…有難う!よし、じゃあ先ずは住む家が先か。その後で精製所と倉庫の準備だな」
「そうだね。建設工事用のオートマタでも作るかな…」
二人して色々と話をしながら樹海を抜けていく。兄弟なのにこんなに沢山話した事有ったっけ?と思うくらい色々と話した。
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