第4話 どうやらお宝を発見した様です。

赤毛熊を持って帰ると皆からはびっくりされた。コックのチャックは偉い喜んでたけど…。

エリオット兄さんは腕と首の切り口を見て武器は何を使ったのかと聞いてきたので、ボロい剣を見つけてそれを研いでから使ったが首を斬った時に折れたと話した。

エリオット兄さんはオレにもっと聞きたかったみたいだけど父に呼ばれて渋々引き下がった。


オレが【金属使役魔法】をひた隠しにするのには二つ理由が有る。


一つはこの魔法が公になると鉱石の採掘場に送られる可能性が出て来るからだ。

金属の使役でオレは金属の純度を100%に出来る。それがバレれば永遠に採掘と精製をやらされるだろうと考えるからだ。オレなら間違いなくそうする。ましてやあの父なら平気で従属魔法で奴隷扱いにして採掘させるだろう。


もう一つはオレが冒険者になりたいからである。エリオット兄さんは騎士団の話を良くする。恐らくは剣士として騎士団に入れたいのだろう。だがオレは自由になりたいのだ。廃嫡の話を聞いた時は正直面食らったけど、それも良いかと思っていた。追い出されても既に魔法は使えたし、森で暮せば何とかなると思っていたからだ。まあ、色々な人達が頑張ってくれて廃嫡は回避されたので感謝はしてるし、皆に恩返しはしたいとは思うけどね。


と、まあこんな感じでココに居る間は【金属使役魔法】の事をバレない様にしなければならない。例えそれが大好きな兄姉であってもだ。この魔法を見せる時はこの家を出る時だと覚悟している。



初めて食べた美味しい熊料理を堪能した次の日にエリオット兄さんが町の武具屋に連れて行ってくれた。どうやら剣が折れたと本当に思ってるらしい。新しい剣を買ってくれる様だ。


「これはエリオット様!如何なさいましたか?」


「うむ、弟に剣を買ってあげようかと思ってね」


「それはそれは…然しながらウチでは大した物は御座いませんが…」


「其処に飾ってあるのは?」


「コレはイルハム地方で作られている鋼のファルシオンですね。短めですが片刃で重たいので…」


と店主が重たそうに下ろしたのをオレがヒョイと持ち上げて、鞘から刀身を出して片手でブンブン振りまわすのを見て店主は腰を抜かしてしまった。


「アレス、どうだい?」


「頑丈そうだし振りやすい重さだから良いけど…」


「じゃあコレで。私の名前でウチに請求掛けてくれ」


「は、はいいい!有難う御座います!」


「エリオット兄さん、ホントに良いの?」


「構わんさ。カノーには話しておくから安心して良いよ」


「やった!!ありがとう!」


コレで例の鋼糸の練習が捗る。獲物はこの剣で斬った事に出来るからね。タマには使うかもだけどあくまでもこの剣はダミーだ。ゴメンよエリオット兄さん。




それから半年経った。オレは5歳になった。身長も少し伸びたかな。

この頃、カノーはコッソリとタコ部屋から一人部屋に変えてくれた。本当にありがたい。


次男のマイケル兄さんはその優秀さから家庭教師が付いた様で中々会えなくなった。ちょっと寂しい。

マイケル兄さんは何時でもオレに優しい。それに頭も切れる。廃嫡の際もカノーを味方に付けて、直ぐにエリオット兄さんに連絡を取り、父と母に対抗してくれたのを最近知った。エリオット兄さんやカノーを操るとは…まるで軍師だ。ホントに良い兄に恵まれてる。


ミレーナ姉さんは相変わらずお転婆でしょっちゅう叱られてるけど全くめげない。寧ろ酷くなってる気がする。

この間は居間で覚えたばかりの攻撃魔法を制御し損ねてぶっ放したらしい。オレが居た森の奥まで音が聞こえたからね。帰ったら居間の壁にどデカい穴が空いてたよ。何故外でなく居間だったのか聞くと「緊張感の為よ」と言ってた。良く分からない。

姉さんは罰として一週間も魔力枯渇の腕輪を付けられてた。魔力枯渇のキツさを良く知ってるオレは毎晩目を盗んでは姉さんの看病をした。そんな無茶苦茶するけどオレには優しい。ただ、ほっぺたをプニっとするのだけはホントにやめて欲しい。


エリオット兄さんは帰省する度に新しい魔力操作の宿題を残してゆく。

そのお陰で魔力操作の技術が途轍もなく向上した。この魔力操作こそが【金属使役魔法】の肝になるのだ。

例え使役しても上手く操れなければただの金属で有る。技術が向上すればやれる事が増えてくる。その組み合わせで新たな技も出来るのだ。

鋼糸の技術も格段に向上し、斬れ味も操れる長さも向上した。今やオレこそが○斗水鳥拳の正統伝承者だと思っている。オレは馬鹿かも知れない。

棒術の技術はもはや棒術の概念を超えた。鞭の様になったり、先端からタコの足の様に何本にも分けて伸ばす事も出来るし、傘の様に広げて防御も可能だ。

最近では弾を発射するライフル銃の様な攻撃もテスト中である。コレが実用化すれば、今の近距離と中距離の攻撃に遠距離が追加され攻撃の範囲が広がるのだ。


そして狩りの範囲も森の更に奥の樹海に頻繁に入る様になった。危険が増したが獲物も得られる経験も向上した。

また、ケガや解毒なども対処しなければならないので、薬草と薬学をマイケル兄さんに色々と教えてもらった。ホントに生き字引過ぎる。まだ10歳なのに。


そうそう、最近樹海で冒険者の遺品らしい武具を見つけた。

多分その時にオレが倒したオーガの群れに殺られたのだろうね。その武具の鋼も鋼の棒に吸収した。

その遺品の中にマジックバックが有ったのにはとても喜んだ。中には薬、食品や火を起す魔導具や魔導ランタンなど冒険者道具一式の他にドロップアイテムの魔石や武具類、そして鉱石の塊が入っていた。

その鉱石がミスリルだったので小踊りして喜んだ。使役して精製すると指輪くらいにしかならなかったけど、鉱石を発掘した場所を特定出来たのだ。

そしてこの件がオレの人生のターニングポイントとなったのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る