第3話 どうやら大物を狩った様です。

色々と有ったオレも4歳になった。

ギリギリ廃嫡を逃れたオレは使用人扱いとなり、修行がてら狩りをする事となる。

使用人には給金が支給されるが、ランクが下の方の使用人はさほど多くは無い。食事は使用人皆に出るのだが、やはり質素な物である。その為に家庭菜園や狩りをして食事の水増しをするのだ。

オレが狩りをする様になると安定して皆の食事の分を獲って来るので使用人の食卓が少し豪華になった。やはり肉は料理の華なのだ。

中心は兎の魔物であるが、時々デカい猪の魔物を獲ったり、滅多に獲れない鹿の魔物の時はお祭り騒ぎになる。

だが、この日の狩りはちょっとしたハプニングが待ち構えていた。


(…何だ?この感覚は…??)


狩りに出る様になって探知能力が更に向上したオレであったが、今の森を支配している感覚は初めての感覚だ。


(向こうだな…チョットだけ見に行こう)


感覚を頼りに向かってみると猪の魔物が殺されて喰われている。相手は3メーター以上ある赤毛の熊の魔物で『レッドデスベアー』である。ここの森の主なのか?それとももっと先の森からやって来たのかは分からないが狩りをする上でかなりの脅威である。


(さあ、どうしたものかな…)


狩りで何時もやっている鋼の棒で殴り付けたり突いたりだと致命傷は無理な様だ。そうなるとやり方を変えなければいけない。槍に先端を変えても良かったが、他のやり方も考慮する。テストならあの練習中の奴だけど…。


(よーし、チョットだけやってみるかな…)


オレは鋼の棒から鋼糸に変化させる。そして両手の指先から3メーターほど出して自由自在に動かす。コレを超振動させて相手を斬るのだ。


「おい!熊!オレに倒されろクマ!」


とイキナリ声を掛けられて驚いた様に振り返る赤毛熊。オレを見た瞬間に飛び掛って来た!!デカい右手を振り下ろして攻撃して来るのをギリギリ避けながらアッパー気味に左手を振る!


「シャウ!!」


○斗水鳥拳の蒼い髪の人の様な高い声を出し赤毛熊を切り裂く!!と赤毛熊の右手がスパッと斬れた!が赤毛熊はそのまま噛み付こうと突進して来る!

オレは赤毛熊を跳馬の様にジャンプしながら躱して赤毛熊の真上で両手を交差させて振りぬいた!


「シャウ!!」


と高声を出すと同時に赤毛熊の首が胴体から離れた。まさしくあの漫画の様な動き。オレは憧れていたあの拳法家になれた気がして満足していた。が、魔力が尽きてきたので鋼糸を元の鋼の棒に戻した。


(やはり魔力の減りが半端ねえなぁ…)


鋼糸を操るのも超振動させるのもかなりの魔力を消費してしまうので完全実用化にはまだまだハードルは高そうである。しかしながらテストとしては間違いなく成功したと言って良い。防御力もけして低くない赤毛熊を切り裂く事が出来たのだ。


(さて…どうするかなぁ…クマさんデカ過ぎなんてすけど…)


とりあえず内臓を取り出して喰われてた猪の上に置いた。他の魔物が食ってくれるだろう。そして赤毛熊を近くの小川まで運び傷口を水に漬けて逆さ吊り気味に斜めにして血抜きしておく。

その後は修行の時間である。エリオット兄さんに教えてもらった魔力操作の練習だ。魔力が枯渇気味なので集中して行なう。最近は魔力枯渇時に座禅を組んで瞑想すると魔力の戻りが早くなるのでこのやり方を使い魔力を復活させる。

今日は大物だったので早目に修行を切り上げる。運ぶのが大変だからね。

赤毛熊を鋼の棒からソリの形に変えた奴に載せて引っ張る。ソリの下の方はツルツルにしているので良く滑る。屋敷に着く頃には良い時間になってしまった。

屋敷の近くに馬車が止まって居たので何かと思ったらエリオット兄さんが出て来た。


「おいおい…アレスは何を引っ張って来たんだい??」


「あっ、エリオット兄さん!初めて赤毛熊を狩ったから食べていってね!」


エリオット兄さんは口を開けたまま言葉が出て来ないみたいだった。どうしたのかな?変なエリオット兄さん…



◇◇◇◇◇◇◇



私はエリオット=ランカスター。


ランカスター家の嫡男で魔法騎士団の養成学院を首席で卒業し、現在は魔法騎士団の正式な団員である。内示を受けたので恐らく直ぐに昇進するだろう。

私には可愛い三人の弟妹が居る。

利発で器用で優しいマイケル。

活発でちょっとお転婆なミレーナ。

そして、魔法が使えない不遇の弟であるアレスだ。


アレスは幼い頃から魔力の扱いが上手かった。最初に見た時は本当に驚いたが私の弟だしこの位は出来てもおかしくないと思っていた。だが、大きくなるにつれ魔力操作や魔力量の増え方が規格外であると分かった。

魔力操作は教えると次に帰ってきた時にはもう出来る様になって居たし、魔力量も確実に増え続けて居るのだ。

魔力操作は学院で習う様な高度な操作を簡単にやってのけるし、本来は魔力量はどんなに頑張っても一割二割増えるのがやっとである。それがアレスは間違いなく三倍か四倍に増えているのだ。


「天才」とレッテルを貼られた私は常に孤独だった。産まれた頃から父に匹敵する魔力量を持ち、6歳の頃には火と土の最上級の魔法を放つ事が出来た。その頃から周りは大人ばかりになった。

トドメは9歳の時に読んだ火山の本のマグマの説明を見て「火と土の魔法で造れそう!」と軽いノリでやったら出来てしまった事だ。それ以来、皆の私を見る目が変わってしまった…。

だがアレスは私と同じかもしくはそれ以上の天才だと…本当に嬉しかった。

アレスこそは私を孤独から開放してくれる者と信じていた…。

それが属性魔法を使えないと言う悲劇にアレスは見舞われたのだ。

残念でならなかった…もし属性魔法が使えていたなら私の手元に置いて自分の技術の全てを教えるつもりだったのに。


そのアレスを事もあろうに父と母が廃嫡に追い込もうとしたと聞き及び、怒り心頭で父と母に噛み付いた。この二人は馬鹿なのか?魔法が使えないなら立派に剣士としても生きて行けるのに。身体強化はお手の物だし素質が非常に高かった。それを廃嫡などと愚か過ぎてものも言えない。カノーが必死で頼むので仕方無く分家になるのは諦めたが、この事でいずれは追い落としてやると心に決めた。

使用人扱いされているアレスだが、父母以外にはとても可愛がられており安心して任せていた。

アレスが12歳になったら私が預かって騎士学院に入れて立派な騎士にするつもりだ。


しばらくぶりに帰省した私が馬車から出ようとすると小さな子が巨大な物を引きずりながら歩いて来た。


(ん?アレはアレスじゃないか?何を引っ張ってるんだ…??)


私が降りて呼び掛けるとアレスはニッコリと微笑んてこう言った。


「あっ、エリオット兄さん!初めて赤毛熊を狩ったから食べていってね!」


アレスさんや…それは『レッドデスベアー』と言って冒険者でもミドルクラスの連中が狩る魔物なんだよ…4歳の子が狩る魔物じゃ無いんだよ…。


アレスは絶対に私が立派な騎士にしてみせる。と言うか私の助けも要らないかも知れない…。

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