第2話 どうやら廃嫡しかけた様です。
気付くと其処は良く見えない世界だった。
眼鏡をかけてない感じ…音も聴きにくい。声も上手く発せられない。身体も上手く動かせない…
(コレって赤ん坊に転生したんじゃね?)
色々と上手く動かないから出る物も出っ放しだ。コレは気持ち悪いよ…
(なるほど赤ん坊が泣く訳だなぁ…)
赤ん坊でも魔力を感じる事は出来るかもと色々とやってみる。すると微量の魔力を感じる事が出来た。集中しながら魔力を動かす様にやって見るが中々難しい。
(まあ、時間は有るし気長にやろう…それにしても漏らすと気持ち悪いな…そろそろ泣いて取り換えさせるか…)
泣くと直ぐに誰かが来て世話を焼いてくれる。もちろんミルクも貰える。赤ん坊だから仕方無い。まあ、かなり色々とメンタルを鍛える事が出来たね…。
2週間くらい経つと五感がしっかりして来るので色々と分かってくる。基本的にオレの世話をしているのは乳母のメルさんだ。もちろん母乳もこの人のだ。色々と感謝しかない…本当に有難う御座います。
どうやらオレは貴族の家に生まれた様だ。名前はアレス。父はまだ見た事が無い。母はローザと言われていた。一日一回は必ず来る。凄え美人。
後は兄が二人と姉一人の四人兄弟の三男坊になるみたい。
上の兄は見た事ないけど下の兄と姉は一日何度も見に来る。下の兄はマイケルで姉はミレーナ、マイケルの方がお兄ちゃんって呼ばれてるからオレの直上はミレーナ姉さんなのだろう。マイケル兄さんはオレを良く撫でてくれる優しい兄さんだ。一方ミレーナ姉さんはお転婆でいつも叱られてる。オレのほっぺたが大好きな様でいつもプニーってやる。面倒くさい。
それから二ヶ月が過ぎた。魔力の使い方が大分身に付いて来たな。この頃に遠征から帰って来た父に初めて会った。父の名はデュラハン、魔力が物凄く強大だ。あまりに凄くてチビっちゃったのは赤ちゃんだからだ。仕方無い。
半年もすると魔力も地味に増えて肉体強化したのか立って歩ける様になった。よちよち歩いてたら乳母のメルさんが腰を抜かして驚いていた。悪い事をしちゃったな…。
この頃に初めて上の兄であるエリオットに会った。エリオット兄さんはあの父に負けず劣らずの強大な魔力の持ち主で、現在は15歳だが10歳の時に魔法騎士団の養成学院に特別措置で入学したという将来を属望された『神童』である。
たまたま帰省してた折に、オレが魔力の使い方の練習をしてたらそれに気付いて部屋にやって来たのだ。エリオット兄さんは最初驚いていたけど直ぐに理解したのかオレに色々と魔力操作を見せてくれた。うーん凄い…やはり天才は違う。
1歳になる頃にはマイケル兄さんとミレーナ姉さんの後にくっついて庭を歩き回れる様になった。魔力も地味に増えてエリオット兄さんに見せてもらった魔力操作もかなり覚えてきた。
この頃に初めて【金属使役魔法】を使った。初めて使役したのは純銀製のスプーンだ。離乳食を食べた時にコッソリとパクっておいたのだ。純銀と言っても純度は100%では無いので不純物を取り除き精製して100%にした。銀は魔力で形を変えやすく練習にはもってこいだった。色々な形に激しく変えながら魔力を消費して魔力を枯渇状態にする。コレをガンガン繰り返す事で地味に魔力量が増えるのだ。結構キツいけどね。
それから半年位で屋敷の物置小屋に置いてある錆び付いた武具や農具など要らなそうな鉄製品を使役して精製した。
不純物を抜いて鋼の棒を作ったのだ。自分の持ちやすい長さと太さに変え、それを振り回したり突いたりして魔力による肉体強化や筋力を鍛えたり、長くしたり短くしたりと形を変化させるなどの操作系の練習をした。
練習は誰にも見つからない様に細心の注意を払った。何せ30kg位の鋼の棒を1歳半のガキが振り回してるのだから家の誰かに見られたらヤバい。それが功を奏して魔力による感知能力も鍛えられた。
2歳の頃には鋼の棒を持って屋敷を抜け出しては近くの森に行き、そこで棒術や魔力操作の練習に明け暮れた。エリオット兄さんが帰る度に難易度の高い魔力操作を教わってそれを出来る様に練習してたのだ。
そして、この頃に初めて兎の魔物に襲われて返り討ちにしてやった。森の近くの家の主人に持って行ったら凄く喜ばれて焼いた肉を食わせてくれた。
3歳になった頃にオレにとって重大な転機が訪れる。
屋敷にある男が現れたのだ。その男はコールと言う名で魔法の属性などを鑑定する『鑑定師』だった。そう、オレの能力鑑定にやって来たのだ。
「では拝見させて頂きます…」
水晶玉には属性魔法の色が出るのだが、当然の事ながら何も写らない…オレには属性魔法は無いのだから。
「こ、これは…ま、誠に残念ながら御子息には魔法の能力が無い様です…」
「ば、馬鹿な!!我がランカスター家の血筋に魔法が使えない者が現れるなど有り得ない!!」
父は怒り狂っていた。何故ならランカスターの一族は本家分家に関わらず代々優秀な魔術師の家系で、王国でも上位を争う実力者揃いである。ましてやデュラハンの家はランカスターの本家筋であり、属性魔法は使えて当たり前でどれだけの属性を使いこなせる事が問題なのである。
属性魔法は火、水、風、土、光、闇の基本六属性。上位属性で雷、氷である。
父デュラハンは風と水と土の属性を持ち、特に風の魔法は『暴風』の名で知られる王国トップクラスの実力である。
長兄のエリオットは火と土の属性を持ち、両方を極めた者のみが使える合成魔法『マグマ魔法』を得意としていた。合成魔法は繊細かつ複雑な魔力操作が必要な為、使い手は王国でも数えるほどしか居ない。エリオットが天才たる所以だ。
次兄のマイケルは火と風と水と土の四属性を持っている稀有な存在で、その器用さと頭脳明晰な所から将来的には魔法の研究者としての活躍を期待されている。
長女のミレーナは貴重な光の属性を持ち、本来、光の魔法は攻撃、防御、回復のどれかしか使えないのだが、それを全て扱う事が出来るので、これもまた将来有望である。
その優秀な一族から属性魔法が使えない者が出たので有る。属性魔法を使えないのは一重に転生者であるオレのせいである。何かね、ホントにスミマセンね…。
この日を境に父と母の態度が180度変わる。オレは元居た部屋から追い出され、使用人達が暮らす家のタコ部屋に移動となった。
当家の筆頭執事であるカノーは大反対した様だが、廃嫡だけは取り消させると言う条件で折り合った様だ。
マイケル兄さんとミレーナ姉さんは父と母からオレと会う事を禁止されたらしいのだが、平気で目を盗んでは会いに来て一緒に遊んだりお菓子を持ってきてくれた。優しい兄と姉だ。ほっぺたをプニーっとするのだけは面倒くさいけど。
エリオット兄さんはもっと過激な愛情をみせた。父と母のオレへの仕打ちが我慢ならず、嫡男として本家を継ぐのを止め、分家として独立してオレを引き取るとまで言ったらしいが、カノーが必死に仲立ちをして何とか鉾を収めたらしい。エリオット兄さんはオレに会いに来た時に泣いて詫びていた。ホントに良い兄だ、感謝しかない。
それからのオレは使用人として扱われ、屋敷の掃除やら力仕事をやらされた。しかしながら3歳でも魔力による肉体強化によって使用人達に驚かれる位にバリバリ働いたので皆からは可愛がられた。そのうち仕事の合間、森で修行してる時に兎や猪の魔物を獲っては持って帰る様になり、皆から喜ばれたオレは狩りを任される事になる。父は最悪オレが森で魔物に殺られても良いと考えて許可したらしい。ブレないなぁ。
まあ、こんな感じで貴族としては不遇な幼年期を過ごす事になったが、グレずにやって来れたのは転生者であるオレの前世の経験がある事も事実ではあるが、兄姉や屋敷の人達のお陰でもある。こうして廃嫡寸前まで追い込まれたオレは、何とか首の皮一枚でその危機を脱した様だ。
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