閑話4 柚と真澄

「天音先生、ホントにあんなこと言って良かったの?」


 晃汰達のアパートを出たあと、秋沢さんが私にそんな事を言ってくる。


「あんなことって?」

「彼女の座を奪うとか」

「あれは……ほら! あぁでも言わないとあの二人だと緊張感も無しにひたすらベタベタしそうでしょ? だからよ!」

「ふ~ん。まぁ、ボクは別にどっちでもいいんだけど」


 そんな言い訳しながらも、さっき晃汰と結に話した言葉は実はほとんど私の本音。本当はそんな事言うつもりはなかったけど、二人の──ってゆうかあんな格好の結と一緒にいる晃汰を見たら感情が押さえられなくて言っちゃった。

 本当はちゃんとお祝いしてあげようとしてたのに……。

 それに……。


「天音先生」

「え、何?」


 秋沢さんが足を止めた。


「確かに僕もあの二人の事が学校にバレないようにするの協力するけど、それはボクがこうたんの事が好きだから。別に諦めた訳じゃない。これだけは言っておく」

「秋沢さん……」


 そうなの。

 私達があのアパートに引っ越す理由がそれ。

 いくら両思いだと言っても、周りはそうは見ない人が沢山いるはず。

 晃汰は多少は気をつけてるみたいだけど、結はきっと分かってない。好きの感情だけで周りが見えてない所がある。さっきだってそう。

 部屋に来たのが私だってだけですぐに玄関のドアを開けたし、秋沢さんが入って来た時もそんなに慌ててる様子が無かった。

 あれが秋沢さんだったからまだ良かった(?)けど、もしそれ以外の人だったら?

 友達が遊びに来たいとか言ったりしたらどうするつもりなんだろう?

 それに、結は学園で聖女って呼ばれてる。

 モテてるのも知ってる。変な男に付き纏われたら? 晃汰と一緒に住んでることで脅迫とかされたりしたら?

 多分そんな所までは頭が回ってない。

 だから少しでも助けになるように、私も空いてる部屋に引っ越すことにした。

 お母さんと晃汰のご両親には、私の気持ちと一緒にこの事も伝えてある。

 それであの返答だったから拍子抜けしたけどね。

 確かに私はまだ晃汰の事が好き。だけど結の事も大好き。だから二人には幸せになってもらいたい。でも、結が学生のうちは節度を持ったお付き合いをしてもらうけど! その為の監視の意味もちょっとあったりする。

 でも……やっぱり嫉妬もあったりする……。

 心のどこかで、振り向いて欲しいって欲がある。

 実際、結と晃汰がだって聞いた時は安心しちゃった。


 ……まだ……チャンスあったりするのかな?


「天音先生、恋する乙女の顔になってる」

「へっ!?」

「諦められそうにない。そんな顔してる」

「そ、そんなことないわよっ!」

「……これから二人のイチャイチャを見守れるね」

「うぐっ!」

「キス現場とか」

「ガフッ!」

「ダメじゃん」

「だってまだそんなに時間経ってないし……」

「どれくらい必要?」

「……10年?」

「おばさん」

「リアルに止めて……」

「ボクもこうたんが好きだから、割り込んだり悲しませたりはしない。けど、アピールはする。人の気持ちは揺れ動くものだから……って今読んでるマンガとラノベに書いてあった」

「アピールねぇ……」


 けど、ホントにこれからどうなるんだろ……。

 勢いでこうなっちゃた感はあるけど、ちょっと早まったかな?


「「………はぁ」」


 我ながら茨の道に踏み込んだような気がするなぁ……。




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