第57話 「よ、嫁っ!?」
というわけで俺は今、柚に連れられて病院に来ている。帰る時に校長に「ハッ、だっせ」って笑われたがしょうがない。こればっかりは俺の不注意だからな。
先にレントゲンを撮るよう言われて撮った後、二人で長椅子に座って待合室で待つことしばらく、ようやく名前を呼ばれて中に入った。何故か柚も一緒に。おかんか? おかんポジのつもりなのか!?
んでもって診察の結果は【急性腰痛症】まぁそうだよねえ。とりあえず痛み止めとシップを処方されるみたい。コルセットは薬局にあるらしいから、それを買った方がいいとか。それを確認して診察室を出る時に看護師がこんな事を言った。
「こういうとき一人だと大変だけど、奥さんがいるなら色々お願い出来るわねぇ?」
って。なーにを言ってんだ。そう思って訂正しようとした瞬間……
「は、はいっ! がんばりますっ!」
「は? え? 柚?」
「仲良しねぇ~。それじゃあお大事に」
そのまま否定も出来ないままで廊下に出る。えっ? ちょっと!? 俺これからもこの病院使うんですけど!?
「おい、お前はいつから俺の嫁になったんだ?」
「よ、嫁っ!? 奥さんじゃなくてお嫁さん!?」
「いや、言い方の問題じゃなくてだな」
「わ、わかってるわよ……。べ、別にいいじゃない。ちょっと会話を合わせただけじゃない……」
「これからもこの病院使うのに変に思われるだろ?」
「何言ってんの。ちょっとした会話までワザワザ覚えてないでしょーよ」
「そうか?」
「何よ……。そんなにイヤなの?」
柚はそんな事を言いながら俺の袖を掴んだままで俯いてしまう。いや、なんでそんな……。
「別にイヤってわけじゃあ……」
「ホントっ!?」
うおっ! びっくりした。そんないきなり顔を上げるな! つーかすっげえニコニコしてるし。何がそんなに嬉しいんだ? まるで俺の事を好いてるみたいじゃねーか……え? いや、まさかな……。でも……最近の柚を見てるとなんだか……。
ん~わかんねえ。これでただの勘違いだったらあれだしなぁ。いやでも……。
「ちょっと晃汰? 何をそんな難しい顔してるのよ。早く会計して帰ろ?」
「っ! そ、そうだな」
隣から俺の腕を軽くひっぱりながら顔を覗きこんでくる。可愛っ……いや、ちょっと待て俺。あれ? こんな可愛いかったか?
まてまてまて……。これはちょっと帰ってから頭を冷やそう。そうしよう。よし、まずは会計だ。早いとこ帰らないとなんかマズイ気がする。
その後すぐに会計を済まし、薬局でコルセットも買った。ちょっと財布に大打撃だったが仕方がない。実際着けてみると、痛みは消えないが全然楽になった。何よりもまっすぐ立てるのが助かる。
「じゃあ帰るか」
「そうね。タクシー呼ぶ?」
「そう……だな。バスまでは時間あるし、歩くのもキツいし」
「待ってて」
柚が総合案内の近くにある、タクシー直通電話に向かうと手早く電話を済ませて直ぐに戻ってくる。どうやらすぐに来るみたいで、俺たちはタクシー乗り場に向かった。
「今日はサンキューな。助かったよ」
「何を今更、別に気にしなくてもいいわよ」
「そうか」
そこからは特に会話も無いまま時間が経ち、やがて目の前にタクシーが来た。
「じゃあ帰るわ。今日のお礼はちゃんとするから」
「思いっきり期待してるからね? てかほんとに部屋までついて行かなくて大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。今日はもうゆっくり休むよ」
「そう、ならいいけど。じゃあ……またね?」
「あぁ、また学校で」
そして俺はタクシーに乗り込んだ。
「ただいまーっと。つっても誰もいないけど」
誰もいないのにボソッと呟いて部屋に入って玄関に座り込む。
「あぁぁぁ、疲れた。そして痛てぇ。薬は……まだ飲める時間じゃないか。くそっ。まーじで失敗した。まさかぎっくり腰になるとはなぁ。あ、とりあえず風呂の準備しないと……」
腰を痛めるまではガッツリ汗かいてたから、このまま寝たりしたら布団が大変な事になってしまう。浴槽は昨日上がる前に洗ったから、後は沸かすボタンを押すだけで済むのが救いだ。今日はちょっと洗うの無理だし。
なんとか立ち上がり、風呂のスイッチを入れた後は座椅子に座ってスマホを開くと、結から何件かメッセが届いていた。
とりあえず、風呂が沸くまでの間に返信しとくかな……。
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