第55話 「か、顔が近いわよぅ……」
保健室のドアを開けると、購買や離れたクラスの友人の元に向かう生徒で廊下は騒然としていた。
そんな中を職員玄関に向かう為に生徒にぶつからない様に壁伝いで進んで行く。靴を変えないと倉庫には行けないからな。
それなのに……なんで廊下で集まってるんだよぉぉぉ! いや、俺も昔似たような事してたから何も言えないけどさ。
しょうがないけど少しだけ遠回りするか。やれやれだなぁ。
そんな事を思いながら方向転換しようとすると後ろから声がかけられた。
「どうしたの? 大丈夫? 辛そう」
「……ん? あぁ秋沢か。いやちょっと作業中にぎっくり腰をな……」
「そう。どこいくの?」
「さっきまで保健室にいたんだけどな。昼だから倉庫に向かうとこだ」
「そっちは逆方向。待ってて」
待ってて? 一体何をするつもりだ?
そこから秋沢がした行動はびっくりするものだった。人を避けて学校生活を送っていた秋沢からは想像も出来ない事。真っ直ぐに廊下に集まってる生徒達の所に行くと一言。
「そこは人が通るとこ。どいて」
って言い放った。言われた方もいきなりのことにキョトンとしていたが、視線を壁で体を支えていた俺の方に向けると道を開けてくれた。
「これで通れる。行こう」
「お、おぅ」
「ん」
そう言うと壁際を歩く俺の隣に立ち、背中を軽く支えてくれた。
一応道を開けてくれた生徒にも「わりぃな」って一声かけると軽く会釈してくれたが、目は大きく開いて驚きが隠せてないようだった。靴を見ると秋沢と同じ色のラインが入ってたから同学年なんだろう。
「なぁいいのか?」
「何が?」
「さっきの同級生だろ? それをあんな感じで言っちゃってさ」
「構わない。話した事なんてないもの」
「そうか。ありがとな?」
「っ! 別に……の為なら……」
「ん?」
「なんでもない」
その後は何事もなく職員玄関までついた。
そして靴を履き替えてる最中にある事に気付く。
「そういえば秋沢はなんであそこにいたんだ?」
「お茶買いに通ったら見かけたから」
あーそういえば自販機の近くだったか。なるほどね。
「ホントは倉庫まで着いていきたいけど、今日日直だから無理。大丈夫?」
「いや、いいよ。大分助かったわ」
「ん、じゃね」
俺が靴を履いたのを見届けると秋沢は来た道を戻って行った。
さて、後は倉庫まで行くだけだ。
時折膝に手を付きながらゆっくりと歩いていると、何故か倉庫の方から柚が走ってきた。
「晃汰! あんた何してんのよ! 授業終わってすぐに保健室行ったのにいないから探したじゃないの! 倉庫にもいないから校舎内探そうと思って戻って来てみたら……っておでこに汗かいてるじゃない。無理しすぎよ。ほら肩かして」
早口で怒られたかと思えばすぐに俺の隣に来てくっつくと、俺の腕を自分の肩に回した。そのため。すぐ近くに柚の顔があった。久しぶりに間近で見たけど、やっぱ綺麗な顔立ちしてんだよなぁ。
そんな事を考えていたら柚が一歩を踏み出した。
「ほら、行くわよ」
「わりぃな。いけると思ったんだけどな」
「まったく、そんなわけなっ──んぁっ!」
勢いよくこっちを振り向いたかと思えば、変な声出してすぐにそっぽを向いてしまった。
「どうした?」
「か、顔が近いわよぅ……」
おい、そこで照れるな。
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