第45話 「見たかったんですか?」

 戸を閉めた結が一歩、また一歩と近づいてくる。つーか、狭いからその二歩で俺の視界は結で埋まる。

 首から下にはタオルが巻かれ、見えるのは顔と膝から下だけ。そして、体の前面で合わせられたタオルの隙間から白く細い指が出てきた。


「ちゃんと……見て下さいね?」


 見てくださいって何を!? 大胆にも程があるんですけどっ! 頑張れ俺の理性……じゃなくて止めないと!


「待っ……!」


 が、静止の声も間に合わず、タオルが浴室の床に落ちる。思わず顔を上げるとそこには──胸元と腰元にフリルの付いた、黄色いビキニタイプの水着を着た結が少し頬を染めながら立っていた。


 片手は腰の後ろに回され、もう片方の手は髪をいじっている。指に髪を絡ませながらクルクルまわしたり、今度はそれを何度も撫で付けてなおしたりしていた。


「どう……ですか? いつもは海とかプールには友達とも行かないんですけど、今年は晃太さんが戻って来たので一緒に行けるかな? と思って買っておいたんです。結局バタバタしてて行けなかったから今着てみたんですけど……」


 どうもなにも……


「可愛い……すげぇ似合ってる」

「あ、ありがとうございます!」



 そうとしか言えないだろコレは。そう思う事以外の俺の思考は完全停止。ショート間近だ。いきなり風呂に入ってきたことなんてどっかに行ってしまった。

 今はただ目の前の光景に釘付けになってしまう。

 白くスラッとした足、キュッとしまった腰に身じろぎすると揺れる双丘。そして恥ずかしそうにさまよう視線。それのどれからも目が離せない。


「あ、あの……見てくださいとは言いましたがそこまでまじまじと見られるとちょっと……えっと……うぅ……」


 だんだんに染まる結の頬。

 所在なさげだった結の腕が、自らの体を隠すかのように胸元や腰にまわりはじめたところで俺も我にかえる。

 やば、見すぎた……。


「っ! あ、あぁごめん……」

「い、いえ……じゃあ私は髪洗いますね」


 一言謝って視線をそらす。

 結はそのまま浴槽の縁に座り込み、水着のまま頭を洗い始めた。


「髪、長いと洗うのも大変そうだな?」

「ん~昔はちょっと面倒でしたけど、今はもう慣れましたね」

「そんなもんなの?」

「そんなもんです♪︎」


 そんな会話をしながらでも結の手は止まらない。シャンプーが終わってからも、なんか色々髪に塗り付けていく。はっきり言って何をしてるのかさっぱりわからん。やがてその頭の工事みたいなのが終わると、髪をでかい洗濯バサミみたいなので止めて浴槽に手をかけてきた。


「あれ? 体は?」

「えっと、実はですね。体は帰ってきてから先にシャワーで済ましたんです。体を洗うとなると水着を脱がなきゃダメなので。それとも、見たかったんですか? ……エッチさん」

「あー確かに。……ってエッチってなんだ! 何も言ってねーだろが! つーか先に洗ってたって、もしかして全部計画してた!?」

「………(ニコっ)……じゃあ入りますね♪︎」


 あ、笑って誤魔化しやがった!





 ━━いつも読んでくれてありがとうございます。

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