第44話 「先に入っててください」
未だに俺の隣で口を開いたままの結。
腕はしっかりホールドされていて抜くのは無理そうだ。いや、力の差があるから抜こうと思えば抜けるんだろうけど、それをすると色々と大変な事になる。主に俺が。
はぁ、しょうがない。とりあえず一口だけでも食べさせてあげれば満足するだろう。
俺は目の前にあるスプーンを取り、今日の夕食であるシチューをすくって結の口元に持っていく。
「ほら、一口だけな? そしたら戻れよ?」
「ふぁい」
「じゃあ……ほら」
俺がそう言うと、結は開けていた口を閉じてこう言った。
「あーんって言ってくれないと食べませんし、離れません」
「なっ、まじか……」
「はい、元カノさんの事も終わったのでここからは私のターンですっ! なのでガンガン行きます! はい、アーン」
それだけ言うとまた口を開く。
いや、ターンて……。
え、ちょっと待って。これから今まで以上に攻めてくるのか!? 学校では秋沢もなんかおかしくなってるし……。なんだこれ。これがモテ期か? 年齢的にも対応に困るモテ期なんだが……。とりあえず……
「あ、あーん……」
「あむっ……んぐんぐ……おいしいです。けど、ちょっと量が多かったですよ? 少し口からこぼれちゃいました」
そう言いながら口の回りに付いたシチューをぺろっと舌で舐めとる結。
「あ、舐めちゃった。ちょっとお行儀悪かったですね」
いやいやいや! ちょっと待ってちょっと待って!
ダメだ。なんか色々ダメだ。何がとは言わないがそれはいかんぞ。
そして、結はそんなつもりじゃないにしてもそんな事を考える俺もダメだ。
「ほ、ほら、食べさせたんだからもう離れなさい」
「しょうがないですねぇ」
しぶしぶっといった感じで腕から離れる。
腕にはまだ柔らかい感触が残っていて中々消えてくれないまま、夕食の時間は終わった。
その後は、結は課題があるらしく部屋で机に向かっている。ちょっと問題を見せてもらったけどさっぱりわからん。特に関数。てめーは敵だ!
俺は風呂が沸くまでの間、部屋でスマホをいじりつつテレビをボケーっと見ている。
何もおもしろいのやってねーな……。
『お風呂が湧きました』
おっ、風呂沸いたか。
「結、風呂沸いたけどどうする?」
「えっと……まだもう少しかかるので晃太さん先に入っててください」
「あいよー」
ん? なんか違和感が……。ん~考えてもわからんな。まぁいいか。
着替えを持っていざ風呂へ。脱いだ物は洗濯機に突っ込んでスイッチオン。後は上がってから干すだけだ。
浴室に入り体も頭も全部洗った後は、防水ケースに入れたスマホから音楽を流しながら何も考えないでボケーっとしながら湯船に浸かる。これ、最近のマイブーム。ちなみに曲はアニソン。テンション上がるよね。
そんな感じでノリノリで、なんなら鼻歌まじりで聞いてる時、いきなり浴室のドアが開いた。
「お待たせしました。入り……ますね?」
「ふんふ~ん♪︎……んぇ?」
俺の視線の先にはタオルを全身に巻いた結の姿。
え? お待たせしましたって何? 風呂場で待ち合わせとかしたっけ?
いや違う。風呂場で待ち合わせってなんだよ。聞いた事ねーよ。
ってそうじゃねーよ! なんで結が風呂に入って来てんのぉぉぉ!?
「へ? お待たせ? なんで?」
「はい? 私ちゃんと言いましたよ? 先に入っててって」
「はい?」
こいつ何言ってん……あっ! 今やっとピンと来た。風呂に入る前に覚えた違和感。
そうだ。確かに結は[入っててください]って言った。いつもは[入ってください]なのにだ。
ってそんなん今更気付いても遅いわ俺!
そんな事を考えていると、ピシャッと浴室の戸が閉まる音がした。
「一緒にお風呂なんて私が小学生の頃以来ですね?」
マジかよ。
━━いつも読んでくれてありがとうございます。
この度、心機一転でタイトルを変更致しました!よろしくお願いします!
面白いよ! もっと読みたいよ!って思っていただけましたら幸いです。
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