閑話3ー3 【柚と香澄】

 晃太の所に元カノが来た日の帰り道に私は決意した。

 もう一度気持ちをぶつけてみようと。

 その為には、まず結に話さないといけない。そして謝らないと。

 そう思って次の日の放課後、結を一緒に駅の裏にある喫茶店にやってきたの。


「おねえちゃんが帰りに誘うなんてめずらしいね。どうしたの?」

「ん〜? ちょっとねぇ〜」


 そう言って店の奥に行って席に向かい合って座ると、結はコーヒーで私はメロンソーダを頼む。店員が持って来たときに逆に置かれたけど、これはいつもの事。

 なによ。いいじゃないのよ。好きなんだから……。


 メロンソーダを一口飲むと結の目を見て気合いを入れる。さぁ、伝えるぞっ!


 って時に喫茶店の中に新しい客が入ってきた。

 ちなみに、ドアが開くときの音は[カラン♪]じゃなくって[ピンポーン♪]だったけど……。


 そして高めの背もたれからちょっと顔を出して見てみると、入ってきたのは……


「んあっ!?」


 晃太と秋沢さん!? それに……元カノも!

 私はすぐに顔を引っ込めて、背もたれに隠れるように背中を丸めた。

 すると結が不思議そうに聞いてくる。結は背中を向けてたから気付いてないみたい。


「おねえちゃんどうしたの?」

「しーっ! 結、もう少し小さくなりなさい。声も抑えて! 二つ後ろの席に晃太が来てる。その……元カノと秋沢さんも!」

「晃太さんが? 元カノさんも……。そっか、もう来たんだ。確か秋沢さんは元カノさんの妹なんだよね?」


 あれ? 秋沢さんが妹って事知ってたの? あぁ、晃太から聞いたのね。

 あいつ、帰ってから結にきちんと話したんだ。ふ〜ん。


 でも……なんでそんなに落ち着いてるのかしら? なんかちょっと……なんかぁ!


「う、うん。どうする?」

「う〜ん。このまま出てくのも変だから、こっそり聞いちゃお?」


 というわけで、私は机の下をくぐって結の隣へ行く。いくら客がいなくて静かだとは言っても、席が離れている為中々聞こえない。だから少しでも近くに言って聞き耳を立てた……。


 ってあのデラックスパフェ頼んだの!? 高いのに! ずるい。いつか私も……。


 ……さて、話を聞いてると変な感じがするわね。なんていうのかな……なんかこう……変。


 結はどう感じてるのかと思って見てみるけど、表情を変えずにジッと聞いているみたいで微動だにしない。我が妹ながらすごいわね。


 っとその時、いきなり晃太が妙な事を言い始めた。

 ちゃんとは聞こえないけど、ヨリ戻すくらいなら秋沢さんと付き合うとかなんとか?……バカねぇ。そんな売り言葉に買い言葉みたいな反応してどうするのよ。

 結がビクッとなった気がするけど、気のせいよね? ちょっと寒気したけど気のせいよね。うん。なんかカップ落としたみたいだけど、ちゃんと謝りなさいよ?


 それにしてもあの元カノさん、もしかして……わざと?


 そこからまた少し盗み聞きを続けると、元カノさんが一人立ち上がると、捨て台詞みたいな言葉を吐き捨てて店から出ていった。あ、あの人っ!


 私は結に一言だけ「ちょっと追いかけてくる」と、告げてすぐに元カノを追いかける。あ、晃太にバレないようにちゃんとコートで顔を隠しながらね。


 店を出て左の方を見ると、駅に向かって歩いてる姿が見えた。


「ちょっと! 待ちなさい!」

「誰? ……って昨日の先生? どうしました?」


 どうしました? じゃないわよ。言いたいことがあるから来たに決まってるじゃないの。それはね……


「実は私もさっき喫茶店にいたのよ。あなたね、自分が頼んだ分は払いなさいよっ!」

「……え?」

「いや、え? じゃないでしょ。あなたが頼んだあのパフェいくらすると思ってんの!? あれ千八百円もするのよ?」


 ボーナス入ったら絶対食べてやるんだから!


「へ? あ、はい。けどそれは、こうちゃんにちゃんとお願いしてきましたし……。それにそんな事を話す為だけに来たんですか?」


 まさか! そんな事だけのために追いかけたりしないわよ。


「……もう一言だけあるわ」

「なんですか?」

「例え譲ったことを後悔しても、自業自得よ」

「……一体何言ってるんです? それにそんなことにはなりませんよ」

「そう、ならいいわ」

「はい。……あたしはあの人みたいには……」

「え、なに?」

「いえ、なんでもないです。それでは失礼しますね……あ、そうそう。先生頑張ってくださいね。ライバルは女子高生ですよ? 好きなんですよね?」

「好きよ。それに……もう、一人も二人も一緒よ。ふんっ」

「やっぱり。てか、他にもいたんですね……」

「……いるのよ」


「「はぁ……」」


 何故か二人同時にため息がでる。

 なにこれ。


「じゃ私は戻るから。それじゃあ……」

「あたしも駅にいきます。頑張ってくださいね。それでは……」


「「さよなら」」



 私は喫茶店の方に振り返って歩いていく。

 喫茶店で晃太に何が起きてるかもしらずに。






 ━━いつも読んでくれてありがとうございます。

 面白いよ! もっと読みたいよ!って思っていただけましたら幸いです。

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