第32話 「またね」
ちょっと待て! 香澄に妹がいたなんて聞いたことないぞ!? 香澄が今住んでる(引っ越してなければ)アパートを借りる前までは父親と二人で祖父母の家にいたはずだ。父親に会ったこともあるけど、再婚した話も聞いたことない。どういうことだ……。
いや、それよりも今の状況だ。 一体何しをにきた。彼氏は? まさか一緒にきたんじゃないだろうな。
そしてなぜここにいる……いや、それはわかってる。
視線だけを横に向けると、そこには秋沢がいる。何故かはわからないが、妹って言ってたからな。秋沢が言ったのだろう。
俺の事はいつ知った? いつから聞いている? 最初から? 倉庫に来るようになった頃から知っていたのか? だとしたらどういうつもりで? そういえば前に運命がどうとか言ってたな……それはこの事を言っていたのか?
ダメだ。さっぱりわからない。全然頭がまわらない。
その時柚が俺の腕を掴み、揺さぶって小声で話しかけてくる。日中の態度とはまるで別だ。
「(ねぇ、ちょっと! この人あんたの知り合いなの? 校門から出たらいきなり声かけられて「真峠さんはまだですか?」って聞かれたんだけど! てかこうちゃんってなに!? しかも秋沢さんのお姉さんってどういうこと?)」
「(あ、いや……その……)」
なんて答えればいいんだ。俺にもよくわかってないんだ。それなのに……。
「こうちゃん、なにコソコソ話してるの?」
「あ、いや……」
「さっきから「あ」とか「あぁ」とかばっかり。変なの〜」
な、なんでこんなに普通に話しかけてこれるんだ? 俺はお前にフラれたんだぞ……。
「ちょっと、 あなたは一体誰ですか? 晃太の知り合いみたいですけど」
「え?」
俺と香澄の間に柚が入ってくる。しかもなんか怒ってるような感じがする。
「晃太、困ってるじゃないですか。あなた、晃太のなんなんです?」
「えっと、なんていうか……ね?」
「姉さんはその人の元カノ」
柚の問いに対して、俺に言わせようとして視線を送ってくる香澄。だが秋沢が横から入ってきて柚にそう告げる。
「え、元カノ? ってあの!?」
「……あぁ」
それを聞いた柚は驚いたように俺を振り返る。
俺はそれに簡単に返事をするだけ。それしか出来なかった。
すると柚は香澄の方に再び振り返る。
「で、その元カノさんは今頃何しに来たの?」
「えっと、真澄からこうちゃんがここにいるって聞いたから、ちょっと様子を見に来ただけですよ? お姉さんは? もしかして新しい彼女?」
「なっ! ち、違うわよ! こいつとはただの幼馴染みよ!」
「そうですか。よかったぁ……。じゃあ失礼しますね。 へへ、こうちゃん今日はもう帰るよ。またね。じゃあ真澄、ご飯でも食べにいこ? 」
「ん、うちで食べない?」
「……いくわけないでしょ」
「っ! うん……」
そう一方的に話すと、香澄と秋沢は二人で歩いていってしまった。
秋沢が誘った時の断る低い声。俺は聞いたことない声だ……。
それにしても様子見って一体なんなんだ?
「ねぇ晃太。あの人何しに来たと思う?」
「わからねぇ……。なんなんだ一体」
「あの……さ、ヨリを戻しに来たとかかな?」
「まさか。俺、フラれたんだぞ? それに向こうは新しい男だって出来たばっかりなんだ。そんなわけないだろ」
「けど……」
「わりぃ、その話はやめてくれ。今は考えたくない」
「あ、うん。そうだよね……。そ、そいえば用事はなんだったの? 仕事?」
「え? あぁ、飲み会の事があったからだと思うけど、今日ずっと俺の事避けてたろ? だから普通に話したくてな。けど今はちゃんと話せてるから用事はもういいかな」
「っ! お、お、お…… 」
「お?」
なんだ?
「思い出させないでよぉぉぉ……」
そう叫ぶと柚は小さくなってしまった。
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