閑話 2-2 【真澄の後悔】

 話を戻す。


 会食が終わって、最後に二人と連絡先を交換した。いつでも連絡してもいいとのこと。

 きっとこれは社交辞令みたいなものだろうし、ボクからは連絡することも何かが無い限りはないだろうと思っていた。そして向こうもそうなんだろうと。


 けど、二人は違うみたい。

 父の方は、たまに元気かどうかの連絡が来る。

 そして姉の方は頻繁にメッセージが来るようになった。内容はほとんど彼氏の話。


『さみしいって言ったらこうちゃんが今日も会いに来てくれた!』

『こうちゃんがプレゼントをくれたの!』

『最近結婚の話も少し出てきたかも? まだわかんないけどね! だからそろそろこうちゃんに真澄達の事も話そっかな?』


 そんなノロケ話ばかり。だけど、それがだんだん変わっていった。


『嫌な事あったから今すぐ会いたいのに無理って言われた』

『こうちゃんが仕事ばっかり』

『こんなにさみしいのにわかってくれない……』

『最近同僚から告白されたの。寂しくさせないとか言われたの……』


 こんな内容に。

 そこで気付く。この人は昔の母と一緒なんだ……と。母の事を嫌うのもきっと同族嫌悪に近いのかもしれない。


 そしてそれを確信するメッセージが届いた。


『こうちゃんがリストラだって。仕事探すとかで全然会えない』

『前に告白してくれた人がすごい優しくしてくれる。やばいかも!』

『こうちゃんと別れちゃった。今は前に話した人と付き合ってるよ〜。毎日会いに来てくれる!』


 あぁやっぱり。そうとしか思わなかった。

 そしてその報告から姉からパッタリと連絡がこなくなる。

 きっとボクとのやり取りは、こうちゃん……確か真峠晃太さんって言ったかな? その人と会ってない時の暇潰しだったのかもしれない。

 けど、その事に関して特になにも思わなかった。


 姉からの連絡がこなくなってからしばらくたって、夏休み明け最初の全校朝礼。

 そこで紹介された新しい用務員の名前を聞いてボクは驚いた。

 あの人、きっと姉の元カレさんだ。

 真峠って苗字は聞いたことがない。それなのに同姓同名なんてそうそういるもんじゃないはず。自己紹介で言った、前に住んでた場所も姉が言ってた場所と一致する。


 それから少し経って、自分でもなんで行ったのかはわからないけど足が倉庫に向かっていた。しかも使いもしない道具を借りるなんて名目で。きっと、あの姉の元カレがどんな人だったのか気になったのかもしれない。


 話してみると、不思議な感じのする人だった。話している内に何故か聞かれてもいない事も話してしまいそうになる感じ。こっちの話す事を否定せずに最後まで聞いてくれる。そして必要以上に踏み込んでこない。クラスの女子の会話を聞いてると、こっちにもっと構って欲しい! とか聞こえてくるけど、ボクは恋人にするのならこのくらいの距離感の方が好きなのかもしれない。

 ちなみに伊達メガネをかけてるのは、教室で人間観察をしている視線を隠す為なんだけど、それを敢えて教えなかったら深読みしたみたいで、やけに優しい顔で頷きながら「頑張れよぉ」って言われた時に思わず笑ってしまいそうになったのは内緒。


 後、ついうっかり【ボク】を使ってしまった時も、笑いながら「おっ、それいいじゃん! 俺はその呼び方も好きだけどな!」って言ってくれた時は感じた事のない嬉しさがあった。

 それに、こんなに一人の人と話したのは始めてかも。


 それから気がつくと倉庫に通うようになっていた。天音先生と仲が良さげなのが何故か少し気になるけど、どうやら幼馴染みらしくてホッとした。……なんでだろう。



 そして九月。

 めったに鳴ることがないスマホが鳴る。相手は姉。内容は……


『フラれちゃった……』

『重いって言われた……』

『こうちゃんと別れなきゃよかった……』


 そんな身勝手な内容。

 それに何故かイラっとしてボクは、


『その人、ボクのとこで用務員やってる。結構話したりするし、この前も一緒にお弁当食べるくらい仲良しだし』


 こんな事を送ってしまった。これじゃまるで挑発でもしてるみたい。自分でもなんでこんな事を送ったのかわからない。



 そして、ボクはそれを後悔することになる。



 あんなに苦しくて辛くて悲しくなる事があるなんて、知らなかったし思ってもなかったんだ……。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る