第23話 「好きで好きで好きで大好きだった」

 さて、柚が来たところで仕切り直しだ。

 俺の隣に柚。向かいには隼人。柚の向かいには比奈が座っている。


「柚、お前はなに飲「生大」……わかった。すいません、生ビールの大で」


 食い気味に要求してきたビールを店員に頼む。いきなり大ってお前……。つか、視線が入り口に固定じゃねーか。どんだけ飲みたかったんだよ。あ、ほら! 持ってきた店員が一瞬怯んでるじゃん。可哀想に……。


 全員の目の前に飲み物が来たところで比奈が口を開いた。


「それじゃあ柚も来たし、もっかい乾杯しよっか?」

「なぁ隼人、後は来ないのか?」

「ん? 来ないぞ。今日はこの四人だけだ」

「そうか。まぁ、ほとんどこの四人でつるんでたから気が楽っちゃあ楽か」

「そうね」

「じゃあカンパーイ♪」

「「「かんぱい!」」」


 比奈の音頭で全員がグラスを合わせる。昔からこんな感じだったな。なんか懐かしいや。

 そして柚よ。いつの間にピッチャーで頼んだ?

 お前、そんなに飲むタイプだったっけ?



 そこからはひたすら会話は盛り上がり、止まることなく話し続けた。仕事の事、同級生の結婚の話、昔話。そして……今の恋愛事情。


「そいえば隼人達は式は挙げないのか?」

「あぁ、身内だけで顔合わせして終わりだったね。今は結構そんなものだよ」

「はぁ〜ん。不景気だからかねぇ」

「そんなことより晃太。お前の話だよ。二年近く付き合ったんでしょ? なのになんで別れたんだい?」


 あぁそうか。フラれたとしか言ってないもんな。まぁ、コイツらなら言ってもいいか。


「なんかな、浮気されてたみたいなんだよなぁ。社長が女性社員ばっかり残したくて俺がリストラされて、それで社宅を出なきゃならなくて、部屋が見付かるまで置いてくれって頼んだ時にいきなりフラれた。ちゃんと話したくて今から行くって言ったら、今から男が来るから無理! ってな。もっと早く言ってくれたらって言ったら、俺が可哀想で言えなかったんだとさ。ま、簡単言うとそんな感じ」


 ん、言っても特にツラくはなんなかったな。少しは自分の気持ちの整理がついてきたか?


「ひどい話しだな……。お前が何かしたわけでもないのだろ?」

「自分では覚えがないんだよなぁ。淋しいとか会いたいとか言われれば、なんとか時間はつくってきたしな。ケンカもしてたわけでもないし」

「なんだろうねぇ? けど、晃太君には悪いけど、結婚してから浮気とかされるよりは良かったんじゃない?」

「まぁ、そういう考えもあるのかね?」


 と、その時


 ガンッ!!


 隣から何かを叩きつける音が聞こえた。


「……柚?」

「晃太。ちょっとその女連れてきなさい。あんたを傷つけた罪を正座させて説教してやるわ」

「なんでだよ……」

「贅沢なのよ! 好きな人に好かれてるだけでも十分幸せな事にも気付けないで他の男? ばっかじゃないの!? 私も気付くの遅すぎたけどさぁ……」

「終わった事だから別にもういいって。にしても酔ってんな〜。荒ぶっておられる」

「何よっ! もうっ!」


 こいつ、酔うとこんなんなのか。知らなかった。


「ほんとにね〜。てか晃太君、あのまま柚と付き合ってれば良かったのにさぁ。てかいつ付き合い始めたんだっけ? そしてなんで別れたの!? いつの間にかだったよね?」


 比奈お前……またその話蒸し返してきたな。


「確か付き合ったの三年の春だな。柚が、試しに付き合ってみる? って言ってそれから付き合い始めたような? 別れたのはそれから半年くらいか。 それくらいで俺がフラれたんだよ」

「ちょっ! 晃太っ!」

「「……は?」」


 隼人と比奈の声が被った。なんでそんなにびっくりしてんだ? そして柚はなんでそんなに焦っている?


「ねぇ柚。確か私には、告白も晃太君からで、別れたのも進学で離れたせいで自然消滅とか言ってなかった?」

「あー、えっとぉ……」


 なんだそれは。初耳だぞ。


「おいこら、どういうことだ。なんか全部俺のせいみたいになってんぞ」

「あの……なんか恥ずかしくて?」

「お前この! お前から友達のままがいいって言ってフッてきたくせに!」

「だってしょうがないじゃん!!」


 突然、柚が大きな声を出した。


「だって、好きで好きで好きで大好きだったんだもん! 好きすぎて嫌われるのが怖かったんだもん! あの時はメールの返事が遅いだけでも嫌だったし、視線を逸らされるだけでも泣きたくなるしで辛かったんだもん! 初めてエッチした後は体が触れてないのですら嫌だったもん! そうなる自分も嫌だったし、付き合う前はそんなじゃなかったし! 友達のままならそんな事思わなかったし!」

「ちょ、落ち着け! な? わかったから」


 頼むからこいつらの前でエッチとか言うなって……。二人ともニヤニヤしてんじゃねぇか。


「わかってないっ!」


 ど、どうしろってんだ……。そうだ。


「ほ、ほら、今はちゃんと彼氏いるんだろ?」

「えっ、柚彼氏いるの? こないだ私にはいないって言ってなかった?」


 ん? 比奈は聞いてないのか?


「こっち戻ってきたときに言ってたんだけど、彼氏い「いないもん」……え?」


 なんつった?


「彼氏なんていないもん。あれからずっといないもん!」


 ……どういうことだ?




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る