第19話 着信

 味もよくわからないまま食事が終わり、今は風呂。少し熱めに沸かした浴槽の中に浸かり、防水ケースに入れたスマホから流れる音楽を聞きながらボーッとする。


 いやぁ、まいった! ホントどうしよう……。いきなりスイッチが入ったかのように変わった結に対して、されるがまま、言われるがままでなーんも出来なかった。

 しかも、その後はホント普通にしてるもんだから余計に追及しにくいし。


 覚悟してってなんだよ!?理性もつか? いや、もたせなきゃダメだろ……。

 母さん達に相談……それはダメだな。俺の心境そっちのけで「いいぞもっとやれ!」って言われる未来しか見えない。


 しかし本気……か。ホントに本気なんだろうなぁ。ファーストキスって言ってたし。

 なんで俺なんか……。

 とりあえず、向こうのペースに飲まれないように毅然とした態度で……


「晃太さん?」

「んあぁい!」


 早速崩れた。てか、もう本気で来た!? いままで俺が風呂入ってる時にはこっち来たことなかったのに。


「大丈夫です? もう一時間も入ってますけど? 後、溜まってますけど洗ってあげましょうか?」

「え?」


 スマホを見ると確かに一時間たっていた。うわ、いつの間に……。心配してくれたのね。

 ん? 洗うってなんだ! いきなりすぎだろ……。物事にはこう、順序ってものがあるでしょ! 後、一部は聞かなかった事にする。


「あぁ、悪い。そろそろ上がるわ。って、もう洗い終わったから大丈夫だ」


 一緒に風呂とか無理無理。昔は一緒に入ってたけど、今は無理。


「え? けど溜まってますよね?」


 ……おい。聞かなかった事にしたのにまた言ったな。どこで覚えたそんな事。


「いやいやいや、そんな心配しなくていいから。大丈夫だから」


 ほんっと大丈夫だから!


「だめです。それに、もう回しちゃいます」


 回す? えっ? なにを?

 その時、脱衣場からピッピッと音が聞こえた。

 あぁ……洗濯機ね。確かに洗濯物溜まってたわ。そういう事ね……。そりゃそうだよな。いきなりそんな展開になるなんて、薄い本じゃあるまいし、結もそんな子じゃないだろ。 俺、穢れてるなぁ……。

 ……あれ? 今まで洗濯やってくれた事あったっけ?


「タオル置いておきますね。次入るので、私は自分の着替え準備してきます」

「ありがと。あいよ」


 ……ほんと態度普通だなぁ。俺だけ困惑してるみたいだ。まぁ、とりあえず上がるか。


 さて、まずは脱衣場を確認。俺が上がったところで鉢合わせなんて、ラブコメのテンプレはいらないからな。よし、いない。

 次は俺の部屋へと続く扉の鍵をかける。

 忘れ物したとかで戻ってきてキャー! もいらない。よし、オッケー。

 これで心置きなく着替える事ができた。後は部屋でちょっと飲んで寝よう。そうしよう。

 ヘタレでもいい。急な展開に頭がついていかないのだよ。


 えっと、確かまだ二本くらいは冷蔵庫に残ってたハズだなぁ〜っと。

 そして俺は部屋への扉を開けた。


「きゃっ!」

「おわっ!」


 扉の向こうには結がいた。どうやら同時に開けようとしたみたいで、結が驚く。そして手に持っていた着替えが床に落ちると、パジャマの間に挟まっていたであろう下着も床に広がってしまった。


 薄紫の上下だった。


 あ〜、まだこのパターンがあったのね……。


「むらさき……」


 そしてつい口に出してしまう俺も俺だ。

 俺の声に気付くと、結はすぐに下着とパジャマを拾い、胸に抱えてこちらを見てくる。

 そして想像もしていない事を言ってきた。


「ちなみにですけど、この色は……好きですか?」


 好きです。じゃなくって、まさかの質問!?


「まぁ、嫌いではないかな……」


 そして俺の返事よ! 何ちょっとかっこつけてんだ!?


「そうですか……。今度好きな色教えて下さいね?」


 それだけ言うと、結は脱衣場に消えていった。

 えーっと、それはどういう意図があって聞いてるのですかねぇ?



 その後、自室の小さな冷蔵庫から酒の缶を一本と、つまみにチーズを取ってベッドに腰かける。さて、飲む「ひゃぁあぁぁぁぁぁぁ!!」なんだぁ!?


 風呂場から結の雄叫び? みたいなのが聞こえた。すぐに声をかける。


「おい、どうした?」

「ひぅっ! な、なんでもないですっ! ちょっとその……なんでもないですっ!」

「お? わ、わかった」


 なんだったんだ? まぁ、なんでもないならいいか。

 そして再度ベットに腰を下ろすと、スマホに着信を知らせるランプが付いていた。


 誰からかと思って見てみると、相手は地元に残ってる旧友。俺に電話が繋がらなかったせいか、SNSでメッセージもきていた。そして内容は飲み会の誘い。俺が帰ってきてるのは柚から聞いたらしい。

 ……気分転換にはいいかもな。


『了解』っと。


 そう送った所で、ちょうど結が風呂から出てくる。そして妙に赤い顔でこう言った。


「きょ、今日はもう寝ますね! 晃太さんおやすみなさいっ!」

「お、おう。おやす『シャッ』み……」


 俺が言い終わる前にカーテン閉められたな。

 まぁ、俺としてはさっきの事があるから助かるんだが……。


 あ、そういえば着信もう一件あったな……。


 これは……しらない番号だな。無視無視。

 さて、俺も寝るか。

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