第四章 湖畔の戦火(前編)

第99話 戦争に向けて


 パーンドギルドで戦争の出兵への強制依頼が出されて後、パヌエの町も慌ただしくなっていた。

 パヌエにある全冒険者ギルドが総力を挙げて、ここヌーンディ王国の進軍に従軍する事を決めたからだった。

 当然シュウ達もパーンドギルドに所属している為、強制依頼として戦場へ従軍する事となり、それなりの用意を行う必要があった。


「ありがとうございましたー!」


 シュウ達は先の総合店舗に足を運び、装備の一新を図っていた。

 疾風猪討伐の依頼料が入ったお陰で、クムトの皮の胸当て、シュウとティルの服、そして皆のマントを無事購入する事が出来たのだ。

 尚、ティルの魔導筆は資金の面から、数打ちを数本買うに留まっている。

 予算的には多少の余裕もあったが、ティル用の高級魔導筆を手に入れられる程では無かったのだ。

 有り合わせで購入出来る中級魔導筆にしなかったのは、今後の事も考えてのチョイスだった。


「取り敢えず、装備はこれでいいだろ」


 旅宿に戻ったシュウ達は今日の購入品について話し合っていた。


「そうじゃな。予算的にもこんなもんじゃろ」


「私はもうちょっとマシな魔導筆が欲しかったよ」


 ティルとしてはちゃんとした魔導筆を手に入れたかったらしいが、流石に無い袖は振れない。


「まあまあ、今回の依頼が終わったら、今度はティルの魔導筆を買おうよ」


「元々ティルには魔導筆は其れ程必要無かろうに」


「でもでも、有った方が楽なんだよー」


「恐らくティルは、今回戦力としては見られないだろうな」


 当然のシュウの言葉に、鳩が豆鉄砲を食った様にティルはキョトンとした。


「えっ? 何で何で?」


「いや、よく考えてみろよ。普通の方陣士は戦場で、どんな働きをするんだ?」


「言われてみればそうじゃのう。普通、方陣士は前線に立つ事はないじゃろ」


「えっ? じゃ、じゃあ私は何をするの?」


「普通に考えて、後方支援で方陣紙の量産とか?」


「ええーっ!」


 クムトの言葉に物凄く嫌そうな顔をする。

 ティルとしては折角積層方陣を覚えたので、魔導士として活躍するつもりだったらしい。


「ティルいいか、お前のスキルはギリギリまで隠せ。俺達は一緒に居られないだろうから、態々リスクを冒す必要は無い」


「でもさー」


「ティルが下手に目立つと、後々大変な目に合うのはティルだからね」


「そうじゃのう。特殊なスキル持ちとして、どこぞで研究、解剖されるやも知れんの」


「げっ! マジ?」


「まぁあり得るな」


 ティルが顔色を青く染めながら小鳥の様に震える。


「ワタシ、シズカニシテル」


「まぁ普通にしときゃいいんだよ」


 シュウも脅かし過ぎたかと一応フォローを入れておく。

 実際にティルが目立つと大変な事になるのは間違い無いのだ。

 只でさえシュウ自身アビリティを隠す気は更々無いので戦場では恐らく目立つ事は予想が出来る。

 その上仲間までとなると後々対処が大変になるのは明白だった。

 かといって、前線で命の掛け合い中に力を隠して怪我を負うなど、シュウの中ではあり得ない選択だ。

 であれば、後方にいるだろうティル位は静かにしておいて貰いたいのだ。


「まぁ取り敢えず、一服したら一度ギルドに戻るぞ」


 恐らくは明日、明後日の出発だろうと思うが、早めに出立時刻を確認しておくに越したことはない。

 準備期間としては短いと思うだろうが事は戦争である。然程時間的猶予が有る訳でもない。

 その後は思い思いに休息を取り、一刻後に皆でギルドへ向かうのだった。

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