第95話 戦争が始まるようです


 駆け込んできた冒険者の男が言うには、サーマレイ王国ーー俗に覇国と呼ばれる西の大国がこの国、ヌーンディ王国に宣戦布告したとの事だった。

 この布告に対しヌーンディ王国は隣り合うシフォン王国とヨーク公国の二国……所謂、北西同盟国で連合軍を組織して迎え撃つらしい。


「ギルド内もバタバタしてきましたね」


「仕方ないじゃろ。辺りの小国を併合していた覇国が本腰を入れて攻めて来るんじゃ。流石に今回は派手な戦になるじゃろうな」


 盛大に溜め息を吐きながらデュスが答える。

 シュウにしても溜め息を吐きたくなる気持ちは重々承知している。

 剰りにタイミングが悪過ぎるのだ。何も自分達が居る時に戦争が起きなくてもいいじゃないかと言いたくなる。

 こうなると略間違いなく、何らかの形で戦争に巻き込まれるだろう。

 態々シュウ達は自ら危険を冒す気など毛頭無いのだが、事ここに至っては最早避けては通れない事も分かっている。

 最悪はギルドから戦争に派兵させられる事だろう。

 冒険者の契約条項にそんな旨が有った事を思い出す。


「たぶん俺らも何らかの形で戦争に巻き込まれるだろうよ。せめてギルドから強制出兵されなきゃいいんだがな……」


 恐らくは無理だろう。何せ国を跨いで依頼を請け負っているのがギルドだ。

 地元や北西三国と密な関係を持ったギルドよりはマシかも知れないが、可能性としては大いにあり得る。

 こんな事ならギルドに登録しなければ良かったと心底思う。

 手っ取り早く金を稼ぐには他の選択肢など無かったに等しいので、仕方の無い事かもしれないが。

 シュウは憂鬱そうな表情を隠しもしないで査定が終わるのを待っていた。

 今はただただ査定が早く終わり、金を貰ってこの場からさっさと去りたい気持ちで一杯なのだ。


「クムト様、お待たせしました。査定が終了しましたので、窓口までお出でください」


「は、はい!」


 その担当者の声にクムトが急いで窓口に向かう。

 当然クムトもこの状況から脱したいのだろう。

 ティルも早く早くと急かすかの様にクムトを見ている。

 全員がこのままお金を貰って、さっさとこの場からフェードアウトしたいと言う思いが透けて見える。

 だが、そんな期待も淡く儚いものだった。


「ギルド内に居られる皆様に申し上げます。我がギルド長から皆様にお話がありますので、そのままでお待ち下さい」


「あっ、終わたわ……これ……」


「あぅぅ……」


 シュウの呟きにティルがストンと椅子へと腰を落とした。


「諦めい……成るようにしかならんよ」


 デュスの悟ったような声が、妙に悲しげに聞こえてきた。


 ガヤガヤと騒がしくなったギルドの内で、一段高くなった場所に、ゆったりとしたそれでいて高級そうな服を纏った壮年の男が現れる。


「我がパーンドギルドの諸君! 私はこのパヌエ支部のギルド長を任されているナットと言う。至急の要件につき挨拶は省略させて貰う」


 ナットと名乗ったギルド長は高段から眼下にいるギルドに所属する冒険者達をゆっくりと一瞥すると、大袈裟に両手を広げながら声高に宣言する。


「只今を持って、ギルドに所属する冒険者全てに、緊急召集を行う!」


 ざわめきが館内に広がる中、ギルド長が更に声高に語る。


「現在我らが住むヌーンディ王国は、隣国シフォン王国、ヨーク公国と連合を組みサーマレイ王国と戦争状態に入った。この国に存在する冒険者ギルドに所属する者は、この連合軍に強制参戦して貰う」


 強制と言う言葉にざわめきが大きくなる。一部では不当だと騒ぐ者まで現れる。


「これは我がパーンドギルドだけの事ではない! どのギルドも同様の対応を取ることに決まった。此度の戦は総力戦となる……国の命運が掛かった戦なのだ!」


 ざわめきは段々と高揚の声に変わっていく。


「無論、無給ではない。戦果を挙げた者には、別途褒賞金も与えられる。皆の力を合わせ、此度の戦に勝利をもたらすのだ!」


『うおおぉぉぉぉぉぉ!』


 ギルド長の言葉に戦意旺盛な雄叫びが反ってくる。

 ここに至り正式に戦争開始が宣言された。三国連合軍対覇国軍。

 世界に拡散していく戦乱の序幕が遂に幕を開ける。

 シュウ達もこの時代のうねりに巻き込まれて行く事となる。

 この戦乱が如何なるモノかは未だ誰も知らなかった。

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